Please me XXX

 ついに、名前が爆発した。
 ――いくら勝己の個性が“爆破”とはいえ、まさか勝己が名前を爆破させたわけではない。ずっと思ってた!と、名前は言った。
「いつもいつも、何で私に言うの? そりゃ、私だってあなたのこと、弟みたいに思ってるよ。けど、あなたには友達がたくさんいるでしょう?」
 何の反応もしない勝己に対し、名前の方はまくし立てるスピードをどんどん加速させていく。――これほど感情的になっている名前を見るのは、ともすると小学生の時以来かもしれなかった。
「デクに勝った、デクより凄い、デクには出来ない――もう嫌!」

 勝己にとって、緑谷出久は道端の石っコロだった。
 運動音痴で、ビビリで、何よりも無個性で――勝己にとっての路傍の石、それが出久だった。実際、勝己でなくとも、出久のことを取るに足らない存在だと考えている者は沢山居る。そもそもこの超人社会で個性を持っていないなんて――。
 しかしながら、名前にとってはそうではなかった。名前にとっては、例え石コロであっても、大事なものなのかもしれなかった。そう例え、そこら中に転がっている石っコロだって。
「私じゃなくたっていいでしょう!」興奮気味に言う名前は、ともすると泣き出してしまいそうだ。「あなたが出久を馬鹿にしてること、私が知らないわけじゃないんだから」
 いつのまにか、名前の目に涙が浮かんでいた。普段はそんな事は一切思わないのに、こうしてみるとやはり名前と出久は似ている。


 えづきながら大粒の涙をぼろぼろと零す名前を、勝己は黙って眺めていた。――彼女に言われながらも、勝己は自分でも理解ができなかった。なぜ、わざわざ名前に言うのだろう。俺はデクに勝って、俺はデクより凄くて、俺にはできてデクにはできなくて。
 名前は緑谷名前であって、爆豪名前ではない。考えてみれば、実の弟を無下にあしらわれて気分が良くなる筈がない。確かに名前と出久が一緒に居る場面はあまり見た覚えがないが、だからといって彼女と出久が仲が悪いという証拠にはならない。
 名前が言った通りだ。俺がデクより凄いことを、別に名前に知らせる必要はない。
 勝己が出久より強いのは当たり前のことであって、別に、わざわざ――勝己は、決して名前を泣かせたかったわけではなかった。

 ――なぜ名前に自分の優位を説きたいのかその理由も解らないし、泣かせたかったわけでもないのだが、言い知れない苛立ちが勝己を襲った。



 名前の首元を鷲掴みにし、そのまま背後の壁へと押し付ける。名前は思った通り、苦しそうに勝己を見やった。しかしながら、戸惑っている様子は見受けられなかった。落ち着いている彼女に、ますます苛立ちが募っていく。
 無意識のうちに、左手を開閉させた。嫌な汗が滲んでいる。勝己のそれを見たのだろう、名前が言った。「あなたの個性は、私には効、かないから」
 ――世間一般と同じように、名前は両親の個性を受け継いでいる。彼女の個性は、“火を操る”こと。確かに、彼女の前では勝己の個性は役に立たない。
「……で?」右手に力を籠めれば、名前の顔が苦痛に歪む。「だから何だってんだよ」
 お前、俺振り解けんのかよ。勝己がそう口にすれば、名前に初めて恐怖が浮かんだ。

 ――勝己は、名前を泣かせたいわけではなかった。もちろん怖がらせたいわけでも。――しかしながら、今の名前を見て漸く理解した。
 名前は緑谷名前であって、爆豪名前ではない。勝己はずっと、自分は姉が欲しいのだと思っていた。しかし、そうではなかった。

 苦しそうな表情で己を見上げ続ける名前に、ゾクゾクした。
 いつの間にか――中学に上がって少し経った頃だろうか、勝己は名前の背を追い抜かした。元々名前は特別身長が高いというわけではない。しかし二つも歳が離れているからだろう、勝己にとって名前という存在は非常に大きく見えていた。その名前が今、勝己の手の中に居る。

 勝己に恐怖を抱いている名前は、勝己のことしか考えていないだろう。

「かっ」名前が言った。「かっちゃん、雄英行きたいんでしょ? 出久から聞いたよ、こんな時期に問題起こしたら、入試に影響が――」
「るっせえな」
 左の掌で小さな爆発を起こしてみせれば、名前は一瞬身動ぎした。そのまま噛り付くようにキスをする。――名前の一番が出久だとしても、もう関係ない。勝己はただ、ずっと前からこうしたかったのだ。

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