To Dear Father and Mother.

 ――ハロウィーンパーティはとっても楽しかったわ。いつものローソクの代わりに、たくさんのジャック・オ・ランタンが浮いてて、コウモリもたくさん飛んでるの。本物よ! 家でやるのと大違い。でも、やっぱりちょっと落ち着かないわ。当たり前だけど、お菓子ばっかりだしね(私、甘いお菓子ってあんまり好きじゃないの)。
 そう言えばこの間、ハグリッドにロックケーキを貰ったんだけど、あれって全然駄目。本当に石みたいだったわ。魔法界ってちょっとヘンテコよね。ローズも頑張って食べてたけど、駄目だったみたい。二人でこっそりポケットにしまって、後で暖炉にくべちゃった。ハグリッドには悪い事をしてしまったわ。でもそうしないと、私の歯が大変な事になってたと思うの。味は悪くなかったと思ったんだけど。
 ねえ、さっき、ほとんど首無しニックが言ってたんだけど、この間の自分の絶命日パーティーでピーブズが大暴れして、滅茶苦茶になっちゃったんだって。ニックは半泣きだったわ。……そもそも絶命日パーティーって何かしら? 自分の死んだ日を祝うだなんて、どうかしてると思うんだけど、こっちじゃ――というより、ゴースト達の中じゃ(だって、魔法界出身のローズもアルも不思議そうな顔してたもの)――それが当たり前で、常識みたい。

 ホグワーツに入学してから二ヶ月が経った訳だけど、そういうヘンテコにも慣れてきたわ。そりゃあ最初は、絵が喋ったり階段が動いたりするのにも、全部飛び上がって驚いてたけど、今じゃ平気よ。でもね、一番ヘンテコなのは――魔法族の生まれの子達が、マグルの製品をワンダフルだと思ってる事!
 あの子達ったら、中に入れれば自然に温まったりするって聞いて、一体どんな魔法だって言うのよ? マグルは魔法が使えないって知ってるのにね(勿論、電子レンジの事よ)。テレビもケータイもクーラーも知らないんだから、おかしいったらないわね。

 そうだこの間、スラグホーンが褒めてくれたわ。ミス・レストレンジは調合がとってもよく出来ますねって。私、クラスで一番頭が良いのはローズなんじゃないかと思うんだけど、魔法薬学だけは私が一番よ! 毎回私が一番に調合が終わって、一番お手本に近いんですもの。
 ――小学校でも、私がたまに変な事をするからってからかう奴が居たけど、そういうのってどこも変わんないんだわ。スコーピウス・マルフォイって奴が、ほんっとうに最低なの! マグルを馬鹿にするし、高慢ちきで嫌な奴だわ。人を何だと思ってるのかしら。「君、置物みたいに突っ立ってないでどいてくれないか」ですって!
 あいつ、家が金持ちだからって、屋敷しもべ妖精が居るからって、別に偉くないんだから! だってホグワーツには百人も屋敷しもべ妖精は居るんですもの。一人や二人や三人ぐらい家に居たって、そんなのどうって事ないわ。ねえ、そうでしょう?――



「ねえあなた、屋敷しもべ妖精って?」
 洗い物を終えた妻がいつのまにか名前の側に来ていて、肩越しから手紙を覗き込んでいた。
「料理や洗濯を手伝ってくれる、そうだな……家政婦のような妖精だよ」
「まあ本当に? それなら、すっごく家事が楽になるでしょうね」
 彼女はそう言ってから、きょろきょろと辺りを見回した。戸棚の影や机の下に、未だ見ぬ屋敷しもべ妖精が居るかもしれないと思ったのかもしれない。名前は小さく笑った。
 普段だったならば、今すぐにでもパックを此処に呼び寄せて、妻の前でも姿を現すようにと言うだろう。しかし今彼女はホグワーツに居たので(何故なら、どうしてもあのお転婆娘が心配だったのだ)、わざわざ来させるのは忍びなかった。
 それに妻が想像している妖精と実際の屋敷しもべ妖精とが、大きくかけ離れているだろう事も解っていた。名前は、マグルが妖精と聞いて考えるのは、マシュマロのような心を持った愛らしい生き物なのだという事を知っていた。そんな夢を壊すのは、彼女がもう少し魔法や魔法界の事に慣れてからでも差し支えないだろう。だからこそ、今までだって会わせていなかったのだ。
 もちろん、彼女が屋敷しもべ妖精を拒絶するような小さな心の持ち主ではない事は、名前が一番よく知っている。ただマグルの常識からすれば、妖精が家でお手伝いをしているだなんてクレイジーだし、その辺の所も名前はちゃんと弁えていたのだ。

 しかし自分は実は魔法使いなのだと打ち明けて、開口一番に、箒で空を飛んだりコウモリやトカゲを使い魔にしたりするのかと聞いた彼女の事だから、パックがテニスボールのような大きな目玉をぐりぐりさせて彼女の前に現れたとしても、きっとすぐに受け入れるのだろう。実際、結婚した自分の夫が魔法使いであり、生まれた娘が魔女である事は、すぐに受け入れていた。
「実は、家にも屋敷しもべ妖精は居るんだよ。今はお使いに出ていて居ないが、いずれ君も会えるだろう」
「まあ、本当に?」
「本当だとも。以前、気が付いたら食器が洗い終わっていたと言っていただろう? あれがそうだよ」
「まあ……」彼女がそう言って目をきらきらと輝かせるので、名前も微笑んだ。



 ――魔法薬の調合じゃ、あたしに勝てないくせにね!
 そうそう、デコッパチ(スコーピウスの事だけど)のパパが、スリザリンのクィディッチ・チームにニンバス二○五○をプレゼントしたの。チーム全員分――七本もよ! よく知らないけど、最新型なんですって。でもだからって、勝つのは私達よ。明後日に試合があるの。(勿論パパもママもよく知ってると思うけど)あたしはクィディッチを見たことがないから、とっても楽しみよ。
 今年のグリフィンドール・チームは物凄く素晴らしいチームなんですって。ウッド先生の受け売りだけど。でも、それって本当なのよ。ジェームズはとっても上手いの。いつかプロのチェイサーになるんじゃないかと思うわ――ジェームズっいうのは、アルのお兄ちゃんよ。
 アルバスも上手だわ。きっと来年選手に選ばれる筈よ。ローズだって、一度で箒が宙に上がったの。信じらんない! 今思い出しても真っ赤になっちゃうわ。クラスで最後まで乗れなかったの、あたしだけなの。きっとママに似たんだわ――もちろん、ママがマグルだからじゃないわよ、ママがあたしが生まれる前に新婚旅行で、何にも無い所で躓いてずっこけたって、パパが言ってたんだもの。

 紙が狭くなってきちゃったから、もうそろそろ終わるわね。書きたい事はいっぱいあったと思うんだけど、忘れちゃった。また今度出すわ。あ、ロングボトム先生がパパによろしくだって。パパは先生と友達なの? だったら素敵ね、あたしロングボトム先生の授業、解りやすくってとっても好きよ。いっぱい点を入れてくれるし。
 ――あー、ン、ローズが書きなさいっていうから書くけど、ちゃんと勉強はやれてるわ。心配しないで。

 それじゃ、またね――パパとママの愛する娘より

  p.s.
 ローズが教えてくれたんだけど、パパってもしかして、ローズのママと同じところで働いてる? ローズがいうには、パパはスリザリン生だったっていうんだけど、パパが卑怯で姑息なスリザリン出身だなんて、嘘よね?



 名前は最後の追伸に小さく眉を上げ(卑怯で姑息だなんて、あんまりな言われようだ)、手紙を妻に渡した。娘に対し、ちゃんと勉学にも励むようにと釘を刺した手紙を出す事はもちろん、薬草学の現教授に、抗議文まで書かなければならなくなってしまった。自分の寮だからと言って、贔屓するのは頂けないと。手紙を受け取ったロングボトムは、どんな顔をするだろうか?
 実の所、彼女は母親似だった。名前に似たのは、髪の色と目の色ぐらいだ。祖母譲りの灰色の瞳をくりくりとさせながら、毎日管理人と追い掛けっこをしているに違いない(前回の手紙には、自分がいかにしてフィルチから逃れ、そしてしっぺ返しをしてやったかが累々と語られていた)。証拠と言えるのかは解らないが、彼女が選ばれたのはスリザリンではなくグリフィンドールなのだ。それに妻が以前、学生時はいつでも及第点ぎりぎりだったと笑っていた。
 しかしながらどうして、運動神経は父親に似てしまったらしい。

 ボールペンでも良かったが、やはりホグワーツにはインクと羽ペンが相応しい。羊皮紙もなければ。名前はそれらを取りに行くため立ち上がった。ついでに紅茶も淹れて、それから二人でゆっくりとするのも偶には良いだろう。
「もちろん君にもだよ、娘の友人の梟くん」名前が振り返りざまにそう言うと、純白の梟はお礼を言うように、小さくホウと鳴いた。
 あいにくと梟フーズはこの家には無かったが、朝食の残りのベーコンならあった筈だ。名前はシロフクロウの頭をそっと撫でてから、居間を後にした。

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