ふぇちずむ

※手フェチの話

 掌から伝わってくる湿った生暖かい感覚に、デイダラは目を細めた。乱暴に振り解いてしまいたい。しかし、それができれば苦労はしない。
「なあ名前」デイダラが言った。
「なふぁに」
 名前の返事は、単なるくぐもった音としてデイダラに届いた。しかし、何を言っているのかくらいは理解できる。性質が悪い。
「そろそろ満足したろ、うん?」
 だから、離してくれよ。
 名前が顔を上げた。しかしながら、彼女の両手は未だデイダラの右手を握り込んだままだ。「やァよ」


 悪童の如くにやりと笑った名前は、赤い舌を躍らせながら、再びデイダラの手の平を舐め上げた。
 手の付け根から中指の先まで、ぬるりとした肉の感触がゆっくりゆっくりと昇っていく。一番端まで来ると、名前はちゅっとリップ音立ててキスを落とした。それが二度、三度と繰り返される。腹立ち紛れに彼女の口へ中指を突っ込んでやれば、名前はそれはそれで幸せそうに銜え込んだ。ちゅうちゅうと卑猥な音を立てながら、赤子のように吸い上げたり、僅かに歯を立てて食感を楽しんだりしている。デイダラが腕を引くと、名前の口はちゅぽんと音を立てた。
 名前は、手フェチである。
 何がどうなってそうなったのかは尋ねたことがなかったし、尋ねようとも思わないが、兎も角も名前は手フェチだった。しかも真性の変態だ(他人の手を舐めながら達しているような女を変態と言わないのなら、他の何を変態と言うのか)。
 そのまま右手を引き戻し、彼女の涎でべたべたになった掌を装束に擦り付けてしまいたかった。べたべたとして、気持ちが悪い。しかし名前が至極残念そうな顔をするので、仕方なくそのまま彼女に手を預ける。彼女はデイダラににっこりと笑い掛け、再びデイダラの手に口を付けた。実に幸せそうだ。
 名前が恍惚の表情を浮かべる度、デイダラの方は渋い表情になっていく。いったい、何が楽しくて、自分の手を涎まみれにされなければならないのか。例え相手が恋人でも――いや、相手が恋人だからこそ――理解できない。
 ――名前は手フェチだったが、デイダラは必ずしもそうではない。

 デイダラがびくりと痙攣した。「オイ――」デイダラは言葉を紡ごうとしたが、途中でつっかえた。手の中央、チャクラ粘土を捏ねる為の唇に、名前が口付けている。
 思わず開いた手の口、その口の中に、名前の舌が潜り込んでいく。手から伝わってくる慣れない味と感覚に眩暈を覚えながら、デイダラの方も彼女の求めに応じるように、ゆるりゆるりと掌の舌を動かした。こいつマジかと思いながら。
 ねっとりと、舌と舌を絡ませ合う。唾液が口の端をたらたらと伝い、デイダラの掌が吊りそうになっても、名前はキスをやめなかった。漸く口を離したと思ったら、随分とまあ、気持ち良さそうにしている。
「……オイラの手で、オナニーすんのはタノしいかい? うん?」
 苛立ちと、侮蔑と、嫉妬とを織り交ぜてそう尋ねれば、名前は消え入りそうな声で「うん」と頷いた。

 デイダラが持っているのは爆発袋だろうと――そう揶揄したのはトビだったが、それもあながち間違いではないかもしれないと、微かに思った。

 未だ火照っている様子の名前を、ぐっと引き寄せる。その両手を自分の両手で掴み取り、そのまま彼女の口にキスを落とした。名前はデイダラの手と繋がっている自分の手を気にしているようで、暫くの間もぞもぞと指を動かしたり、体勢を変えようとしていたが、やがて諦めたらしかった。
 ふぅふぅと、彼女が漏らす吐息がごく間近から聞こえてくる。
 口を離した時、ふと気付けば名前は笑っていた。頬の紅潮を残したまま、にんまりと微笑んでいる彼女は、実に蠱惑的だ。「デイダラ、かーわい」
「……ウルセェよ、うん」
 言っておくけど、私、手に口なんて邪道だって思ってるからね。デイダラだからイイんだから。
 ふふふと笑う名前のその手をぐっと握り締めながら、デイダラは再び口付けを落とした。

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