やんちゃヌケニン

 友人から届いたメールには、相棒との良い付き合い方を見付けたと書いてあった。どうやら、ペンドラーと以前と同じように仲良くなれたらしい。同じ虫ポケ愛好家として、彼女のことは少し心配していたのだ。
 ポケモンの進化は唐突で急激だ。あまり変わらないポケモンも居るが、その大半が大きさが変わったり特性が変わったりして、それまでと全く同じ付き合い方はできないのだ。友人の場合は、どうやら上手くいったらしいが。
 ポケナビをバッグに仕舞おうとした時、頭にふよんと何かが当たった感触がした。すると次の瞬間、何か軽い物が地面に落下した。名前には自分の頭に何が当たったのか、そして何が下へ落ちたのかは解っていた。
 ばっと振り向くと、手持ちポケモンのヌケニンが地面でふるふると震えていた。瀕死状態になっている。「ヌ、ヌケニ――ン!」


 げんきのかけらを押し付けると、がらんどうのヌケニンの目に生気が戻った。ヌケニンはぱっと浮かび上がり、ぴょこぴょこと飛び跳ねる。毎度のことながら、何もなくて良かったと小さく胸を撫で下ろした。
「もう、いきなり近寄ったら危ないでしょう」
 少し叱るような口調で言うものの、ヌケニンは首を傾げ、またぴょこぴょこと飛び跳ねるだけだ。名前は同じようにヌケニンを心配していたテッカニンと顔を見合わせ、揃って溜息を吐いた。

 ポケモンの中には、進化すると姿形がそれまでとは全く異なる種類がある。進化しないものも居るし、さほど変わらないものも居るが、ヌケニンというポケモンは中でも群を抜いて特徴的だ。
 ツチニンの進化形であるヌケニンは、HPが1しかなかった。つまり、ほんのちょっとの衝撃で瀕死状態になってしまう。さっきのように、名前にじゃれつこうとしただけで体力がなくなってしまうのだ。進化前のツチニンや、分裂進化のテッカニンはそんなことはないのだが。
 いつの間にか手持ちの中に存在していたヌケニンは、ひどくやんちゃな性格をしていた。何度名前が「急に飛び付いてはいけない」と言い聞かせても従いやしない。瀕死になっても良いから甘えたい――と、それくらい懐かれているというのなら嬉しいのだが、どうも懐いていると同時に名前を困らせたいとも思っているらしく、ヌケニンはこれまで幾度となく名前に抱き着いて瀕死になっていた。
 今、名前に代わりテッカニンがヌケニンに説教していた。ヌケニンとこのテッカニンは同じツチニンから進化した、いわば双子の兄弟のようなものであって、テッカニンも当然やんちゃな性格をしている。もっともヌケニンが度々瀕死になるせいか、いつの間にかそのやんちゃさは鳴りを潜め、今では良いお兄ちゃん的ポジションに落ち着いている。しかしながら、そんなテッカニンの苦言もヌケニンは聞き入れようとしない。
 本当に、懐いてくれるのは名前だって嬉しいし、こうして好意を表してくれるのも嬉しいのだが。

 
 いつの間にか、ヌケニンはテッカニンを丸め込んだらしい。二匹できゃっきゃと戯れるその様は何とも可愛らしい。が、同時に羨ましくもある。テッカニンが覚えている技はどれもヌケニンにダメージを与えられないので、ああして気軽にじゃれていられるのだ。
 ヌケニンの特徴はヒットポイントが1しかないことだけではない。特筆すべきはその特性だ。ヌケニン固有の特性、ふしぎなまもりは、弱点を突く攻撃しか寄せ付けないという非常に特異なものだった。名前のテッカニンは飛行技のつばめがえしや、悪技のつじぎりを覚えていない為、HPが1のヌケニンも安心して抱き着いたり何だりができるのだ。
 その理論で行くと名前は悪タイプということになるのだろうか。まあそれはともかく。
 再び名前に飛び付こうとしたヌケニンを押し留め、バッグの中を確認した。げんきのかけらが残り少なくなっている。最寄りのフレンドリィショップはどこだったかと思い浮かべながら、ふわふわと浮かんでいるヌケニンを見遣った。
 問題はやんちゃで仕方のないヌケニンではなく、そんなヌケニンに好かれていることがどうしようもなく嬉しいということだろうか。

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