坊やはよい子だ、ねんねしな

「オイおまえ! オレにやられろ!」
 うつらうつらと船を漕ぎ始めていた時、今週何度目かも解らない犯行予告が名前の耳に届いた。

 ヤツドキが逢魔ヶ刻と提携してからというもの、名前はまともに休める時がなかった。逢魔ヶ刻に居たライオンがその最たる原因だ。
 シシドという名の若い雄ライオンは、名前と顔を合わす度にこうして勝負を挑んできた。多分、自分より遥かに優れた雄ライオンの存在が気に喰わないのだろう。が、はっきり言って面倒くさい。名前はヤツドキ唯一のライオンとして、ショーで引っ張りだこだった。それに加えて、今は逢魔ヶ刻の連中の芸まで手伝ってやらなければならない。残された僅かな休憩時間の間にシシドの相手までしてやらなければならないとなると、彼という存在は目障り以外の何物でもなかった。
 そりゃ、最初同種族に会えると知った時は期待に胸を膨らませたものだ。実際にシシドに会ってからも、「何だ雄か」と思いはしたが、自分以外のライオンでしかも若い彼は何だか可愛らしく映り、弟のように思えた。しかしこのシシド、やんちゃにも程がある。ぶっちゃけうぜえ。
「オイ起きろ! そしてオレと戦え!」
 名前はちらっと瞼を開いた。すぐ目の前に、腕を組んだシシドが立っている。安眠妨害にも程がある。少し向こうの方で、名前の調教師が困り顔をしているのが見えた。
「嫌だね。失せろチビ助」
「チビじゃねえ! シシドだ!」
 シャーッと毛を逆立てて、シシドが吠える。最初は園の蛇さんのように「バカネコ」と呼ぶつもりだったのだが、そうすると自分にも帰ってくるので、名前は彼のことをチビ助と呼んでいた。名前から見れば、シシドはまだまだチビ助のライオンだ。

 ギャンギャン騒ぎ立てるシシドに、段々腹が立ってきた。彼がヤツドキの動物なら、一度痛い目に遭わせて大人しくさせるのだが、彼は園組なのでどうにもできない。名前にだって分別くらいある。シシドに出会ってから、ストレスが溜まる一方だ。
 野生を色濃く残しているシシドだが、俄かに起き上がった名前には上手く反応できなかったらしい。まあ、伊達にショーに向けて鍛えているわけではない。名前は起き上がった勢いを殺さずに、シシドに圧し掛かる。そのまま押し倒すと、一回り小さなライオンはぐっと呻いた。
「どけよおまえ!」
「嫌だよ」
 体の下ではシシドがどうにか抜け出そうと藻掻いていたが、本格的に眠気が襲ってきた名前は、欠伸を堪え切れなかった。
「オイ!」
「うるせェなあ……ここはサバンナじゃねえんだ。俺らの仕事は寝ることなんだよ、チビ助」
 名前はもう一度、くわぁと欠伸をした。


 その後、ライオンの二人が仲良く昼寝しているのを見て、人間組の面々がそれぞれカメラに収めていたとかどうとか。

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