02

 忍にはいくつかの区分があった。一番数の多い下忍、部隊長としての実力を有した中忍、一芸に秀でている特別上忍、忍として高い実力を持つ上忍。そして、火影直轄部隊であり、主に暗殺や里の中枢の守護を役目とする暗部。忍達は己の実力に合せて分けられ、そして相応の任務を受けるのだ。
 ここに、一人の暗部が居る。隼の面をつけたこの忍は、やる事なす事全て手早かった。書類を片付けるだけならともかく、特筆すべきは任務遂行の手早さだ。完遂に掛かる目安が三日となっているなら、この忍は二日で終わらせて戻ってきた。一週間なら五日ほど、一ヶ月なら二十日ほど。それはこの暗部が有能であることを明確に示している。付いた名はハヤガケ。忍務で名が必要となる時以外、この暗部は誰からもそう呼ばれていた。同僚からも、そして火影からも。もっとも近頃では他国にまで知られるようになってきて、ハヤガケ自身は迷惑していた。

 ハヤガケは欠伸を一つ零した。隼の面は少し揺れはするものの、外れることはない。報告書はじきに書き終わる。後はこれに封をして、鷹を飛ばせばそれでおしまいだ。眠気はピークに達している。巻物に書かれた文字はぐちゃぐちゃで、これを読むには暗号班の助けが要るかもしれないなあと、ぼんやり思った。いくら暗殺戦術特殊部隊とはいえ、眠いものは眠い。
「まあ、身を誤魔化すのには良いかもね……」
 この、ミミズののたくった後のような文字は。暗部は正体を隠さなければならないのだから、その点では重宝するかもしれない。
 ハヤガケの向かい側で同じように任務報告の巻物に記入していた同僚は、心配そうにハヤガケを見遣った。疲れのせいで頭までやられたのかと、そう思われたのかもしれない。ハヤガケは顔こそ見えずとも声も体格も若々しく、働き盛りだ。ボケるには早過ぎる。自分がやっておきましょうかと申し出る同僚に、ハヤガケは首を振った。

 そもそもにして、ハヤガケは元は結界班として暗部に入隊したのだ。ハヤガケの祖父はうずまき一族の出身で、そんな彼は旅先で惚れ込んだという祖母に求婚、婿入りした。故にハヤガケはうずまき一族由来の結界術を扱うことができる。書物で会得したもの、口伝で受け継がれたものと様々だが、要はハヤガケは結界忍術に優れた忍だった。
 それが何故、実践で使われているのか。ハヤガケは人手不足を恨む。暗部は給料が高いが、死亡率も高い。家が貧乏でなければ、ハヤガケだってスカウト時に断っていた、暗部入隊など。
 〆の言葉を書き綴り、ハヤガケは大きく伸びをした。漸く終わった。口寄せした伝書鷹に巻物を持たせ、火影邸へと向かわせる。安堵の溜息をつき、それから同僚に一言断りを入れ、ハヤガケは姿を消した。


 家に帰ったハヤガケは、極力音を立てないように自室への階段を昇った。一般人の母親はともかく、怪我で引退したものの父親は元忍だ。あまり五月蠅くすれば、ハヤガケの気配に目を覚ましてしまうだろう。
 やっと辿り着いた部屋では、自分が寝ていた。すうすうと寝息を立てている。暢気なものだ。ハヤガケは影分身を解くと同時に、変化の術も解く。そこにはぶかぶかの暗部服を纏った――名字名前が立っていた。日が昇るまでにはまだ少しだけ時間があるが、その数時間後にはアカデミーに行かなければならない。休みたい。教師や友達に怪しまれないようアカデミーに通わせている分身には、出来る限り寝貯めをさせているのだが、それでも成長期の名前には睡眠が不足していた。
 一日で千里を駆けるだなどと噂されている暗部のハヤガケ、その正体は何てことはない、アカデミー生の名字名前だった。数年前にスカウトされ、今に至る。子供の体格では色々と不都合が起こるから、変化の術を使っているだけのこと。任務に出る時は影分身を残している。
 昼間はアカデミー生、夜は暗部。それが名字名前という女の子だった。

 ふと、名前は影分身から得た情報に首を傾げた。そして一人笑みを作る。やはり無理をして分身を残している甲斐があった。このまま寝てしまいたかったのだが、どうやら血くらいは落とすべきらしい。名前は手早く防具を外した後、シャワーを浴びるべく風呂場へと向かった。

 ――寝てばかりの私に、どうやら友達ができたらしい。

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