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 アカデミーという施設に通うことは、決して義務ではなかった。忍び五大国の一つ、火の国の木ノ葉隠れの里とはいえ、老若男女、須らく忍というわけではない。此処に通う生徒は皆、自分の意志でアカデミーへ入学するのだ。無論、そこには本人だけでなく、家族や一族、金銭的な問題等も絡んでくるわけだが。
 秋道チョウジも、そんな親の期待によって入学した者の一人だった。秋道チョウザの一人息子として生まれたチョウジには、将来秋道一族を率いて行かねばならない義務がある。チョウジにとっては、アカデミーへの入学は当然のことだった。
 もっともチョウジ自身、自分が忍になる事に疑問を抱いてはいる。自身の能力の低さ――何をやっても鈍くさいのが、ボクだ――は、自分が一番解っているつもりだ。しかし、チョウジは忍にならなければならない。アカデミーに入学し、忍者にならなければならない。親友を見習い、将来の目標を中忍に定めておくべきか。
 ――再三言うように、アカデミーへの入学は義務ではなかった。本人が嫌なら、別に入らなくても良いのだ。中途退学だって全然アリだ。
「名前にナルト……お前らはオレの授業を聞く気がないのか? ん?」イルカ先生の米神が、やばい。

 名字名前という生徒が居る。何をやらせても平均かそれ以下の彼女は、教師陣から徹底的に目を付けられている。彼女は居眠りをするのだ。それも、四六時中。付いた綽名が万年寝太郎。チョウジやナルトと同じように、問題児の一人だった。
 この日も、彼女は寝ていた。それはもうぐっすり寝ていた。鼾までかいていた。机二つ分ほど離れているチョウジの席からも、はっきり聞き取れるほど大きな音を立てて。隣で寝ている悪戯小僧、うずまきナルトの方が、まだ綺麗に寝ていたくらいだ。ちなみに、ナルトは時々彼女の隣に座る。前に聞いたところ、「名前の隣はイルカ先生に見付かりにくいんだってばよ」との事だ。彼女は度々座席を変える。チョウジはナルトのその言葉で、彼女が教師の目を背く為に毎回席を変わっているのだと気が付いた。
 何故、ああも寝るのだろう。
 チョウジは名前が真面目に授業を受けているのを見たことがなかった。それほどまでに名前はよく寝ているのだ。実技の時すら寝ているのだから――彼女は立ち寝という妙技を習得している――睡眠への執着は半端なものではない。くノ一の授業でも、彼女は万年寝ているらしい。勿論チョウジはくノ一の授業を受けたことがないので、実際のところそれが本当なのかどうなのか知らないのだが、おそらく間違っていないのだろうと思う。過去、くノ一担当の先生が名前を叱り付けているのを見たことがある。

 ぐっすり寝ている、しかも鼾までかいて寝ている彼女は、何故アカデミーに通っているのだろう。あれでは授業を受けていても意味が無い。
 自分と同じように、一族の都合だろうか。名字という一族は聞いたことがないが……。チョウジは彼女の後頭部を眺めながら、答えの出ない問いについて考えていた。
 ――彼女のことが気に掛かるのは、何故だろうか。
「はい先生! 聞く気はありますが、眠気がそれ以上にあるのであります!」
 授業で質問された時のように挙手をしたナルトは、そのまま右手を額の前に持っていき、敬礼の姿勢を取った。クラス一どころか里一番の問題児である彼は、イルカ先生の胃を攻撃することだけに心血を注いでいると言っても過言ではない。その内、先生の胃袋に穴が開いてしまう(食事に難が出るのは可哀想だと思うので、近頃ではチョウジは彼の胃を刺激しないよう努めている)。そしてその隣では、早くも名前が船を漕ぎ始めていた。
 ゆらゆらと、名前の頭が揺れている。

 イルカ先生が頬をひくつかせた。
「お前ら二人とも……廊下に立ってろ!」


 授業終了後、廊下に出たチョウジは壁に凭れ掛かるようにして寝ている名前とナルトの姿を目にした。よくもまあ、二人して気持ち良さそうに眠っているものだ。隣に居たシカマルが、「これじゃお説教ルートだな」と興味なさげにぼやいた。チョウジもそう思う。
 シカマルの言った通り、そのすぐ後に現れたイルカ先生は盛大にブチ切れ、二人の耳を引っ掴んでどこかへ消えた。次の授業の時、ナルトは右耳を抑えるようにして講義を聞いていた。そして名前は眠っていた。
 チョウジは思うのだ。自分も決して真面目な方ではなかったし、問題児の一人ではあるのだが、彼女ほどではない筈だと。



 名前の隣の席を陣取るのは容易だった。彼女は休み時間の間もずっと寝ているし、仮に起きていたとしても、誰が隣に居ようと頓着しない。授業開始の鐘が鳴ってからも、起立と礼が行われている間も、名前は眠りこけていた。着席した後、チョウジは彼女の肩を揺すり、どうにか起こそうと努める。
 この日、名前が授業で眠ることはなかった。少なくとも、鼾はかかなかった。
 度々自分を起こしたチョウジに、名前はふにゃりと笑って「ありがとう」と言った。
「ねえ、名前はどうしていつも寝ているの?」

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