ヒーロー協会本部に未だ留まっているキングが名前の身を案じていた時、名前の方も少しだけ自分のことを心配していた。空に佇んでいるだけだった宇宙船から、大量のミサイルが発射されたのだ。どうやらA市を破壊したのは一人だけの力ではなかったらしい。
 ミサイル群が明らかに名前達の方へ向かっていることから、もしかすると、S級ヒーローを相手に戦っている宇宙人が応援を呼んだのかもしれない。地上の宇宙人がほぼ不死身なのを良い事に、敵味方関係なく攻撃するつもりのようだ。例え巻き込まれても、その驚異的な治癒能力を生かしてすぐに生き返られるわけだ。
 名前は今まで、確かに何度も死んだことがあるが、続け様に死んだことはなかった。死ぬかもしれない――少しだけ、未知の恐怖が鎌首をもたげる。いつ死ねるかと楽しみにしていた時分も過去にはあったが、今は生きていることが楽しいし、このままキングに何も言わず死んでしまうのは、ちょっとだけ嫌だった。
「終わりだ」
「回避、不可、即死」
 宇宙人が嘲り、そして笑った。

 ――しかしながら、名前の心配は杞憂だった。
 何十発ものミサイルは、地面に衝突するより前に、その動きを一様に止めたのだ。それから徐々に向きを変えていく。ミサイルを操っていたのは一人の少女だった。緑色の髪をしたその女の子はS級ヒーロー達を叱責すると、宇宙船の方へ向き直った。「砲弾、お返しするわ」


 地上で爆発する筈だったミサイル群は、全て元の持ち主の元へ戻っていた。空に浮かぶ宇宙船のあちこちで、黒々とした煙が上がる。
「……何あれ」
 女の子はミサイルを跳ね返した後も、次々と攻撃を仕掛けていた。辺りにある、巨大な瓦礫を宇宙船へ向けて飛ばすのだ。一つ一つが数メートル級の大きさで、それに加えてスピードがあるものだから、いくら巨大な宇宙船であっても堪らない。A市全体が崩壊した為、弾には困らなかった。
 思わず漏れた名前の呟きに答えたのは、隣に居たイアイアンだった。
「S級ヒーロー二位のタツマキだ。彼女は超能力者で――」イアイアンが途中で言葉を区切った。それから叫ぶ。「――ファングさん危ない!」
 名前がS級ヒーロー達の方へ目を向けると、老人のヒーローが二つの内の一つを倒したところだった。しかしその直後、最後に残った一人がそのまま攻撃に転じる。重い一撃がヒーローを吹き飛ばし、コンクリート片に激突させた。
 厄介な敵の一人を倒した宇宙人は、高らかに笑った。再生能力に身を任せ、自分はただ攻めに集中していれば良いのだと。ほんの一瞬、S級ヒーロー達の間に緊張が走った。

 決着は呆気なく訪れた。
 勝ちを見出した瞬間が一番危ないとはよく言ったもので、老人が立ち上がった瞬間、侍のヒーローが背後から宇宙人を斬り付けた。宇宙人にとって――というかその場の全員にとって――老人が生きていたのは予想外だったのだろう。その思い込みが命取りになった。一瞬にして、宇宙人は細切れになる。再生しようとするも、既に核の在り処を知られており、悔しげな叫びと共に無惨に消えていった。
「これで全部の頭がイッたようだな! ひとまず勝利だ」マッチョのヒーローが、そう言って嬉しそうに笑った。


 漸く名前はほっとした。暫くは安心だろう。もっともヒーロー達の方は、まだ敵が攻めてくるかもしれないと、警戒を続けているようだった。宇宙船は巨大で、超能力少女の攻撃にもびくともしていない。反撃が来ると考えるのもおかしくはない。先の宇宙人があと何人いるのか――そう考えれば、確かに身の凍るような錯覚に陥る。
 しかし名前は確信していた。この人達なら大丈夫だ。こいつらが本気になったら多分、地球割れる。

 失礼なことを考えていたせいかどうかは解らないが、やがて宇宙船が爆発した。少女の放つ攻撃に耐え切れなくなったようで、内部からも爆発している。エンジン部を損傷したのか、もはや空中に浮かんでいられなくなったようだ。イアイアンが呟くように言った。「落ちます……」
「あ? この位置やばいんじゃねーか? オイ」
 宇宙船はゆっくりとだが、確実に名前達の方に向かって落ちていた。沈黙が過る。やがて、誰ともなく走り始めた。目指すはヒーロー協会本部だ。
「おいお姉ちゃん、走れるか?」
 老人のヒーローがそう言って名前に声を掛けたが、名前の顔が血まみれだからだろう、返事も待たずに「いや無理そうじゃな」と言った。それから俄かに名前を担ぎ上げ、そのまま走り出した。速い。じいちゃんめっさ速い。
「くそ! シルバーファングめ、何故そんなに速い!」
「今は対抗心燃やしてる場合じゃないですよ」
 侍師弟の会話を聞きながら、ヒーローって色々規格外なのだなと、名前はぼんやり思っていた。舌噛みそう。

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