その後、ヒーローがもう三人加勢に現れた。腰の曲がった老人と、金属製のバットを手にした青年と、囚人服を纏った筋肉質な男だ。名前の記憶が間違っていなければ、全員「S級ヒーロー」だ。その時になってようやく、S級ヒーローがこの市に召集されていたのだと思い出す。キングがS級ヒーローだと解ってはいるのだが、彼がヒーローとして活躍しているのを見たことがないせいか、S級ヒーローが他にも居て、彼らもヒーロー協会本部に呼び出されていたのだということを、名前はすっかり忘れていた。
 ――S級ヒーローとは、いったいどういう者達か。
 名前はイアイアンが甲冑を脱ぐのを手伝った。留め具を外し、ゆっくりと上へ持ち上げる。その時に左肩に触れてしまったのか、イアイアンは苦しそうな呻き声を発した。左腕は肩と二の腕の中間辺りから無くなっていて、痛々しいどころの騒ぎではない。名前は上着を脱ぎ、引き裂いて紐状にすると、イアイアンの腕に巻き付けた。彼は不死身ではないのだから、まずは流れ続ける血を止めなければならない。ぐっと引き締めても非力な名前では止血に至らず、片側をイアイアンに引っ張ってもらうことで漸く流血が収まった。
 本当ならすぐにでも病院に連れて行きたいところなのだが、彼にその気はないようで、「ありがとう」と言った後はS級ヒーロー達の戦いを見詰めた。仕方なく名前もイアイアンに倣い、彼らの方を見た。囚人服を着ていた筈のヒーローが、自らの拳で宇宙人を粉砕したところだった。何故か全裸になっている。何故。

 S級ヒーローには一つの基準があると言われている。
 S級ヒーローは今現在、二十人に満たない人数しか居ない。それは、S級ヒーローとA級以下のヒーローとの差が、あまりに大き過ぎるからだ。――S級ヒーローは、たった一人で災害レベル“鬼”を倒せるのだという。

 名前のヒーローに関する知識は全て受け売りだ。雑誌で見たものだったり、テレビで聞いたものだったり、ネットで拾ったものだったり、キングに教えてもらったものだったり。しかし、この日初めて名前は実感する。確かに、S級ヒーロー達は次元が違うのだと。


 マッチョのヒーローに左腕を消し飛ばされた宇宙人だったが、瞬く間に新しい腕を生やした。そのままハンマー状に変化させ、S級ヒーローを殴り付けようとする。先ほどイアイアンの腕を吹き飛ばした衝撃波を出した、あの腕だ。しかしその巨大な腕がマッチョヒーローに当たる寸前、老人のヒーローがその前に立ち塞がり、宇宙人の攻撃を横へいなした。大きな左腕は勢いを落とすことなく狙いを逸れ、地面に激突する。老人はそのまま攻撃へ転じていった。
 一見して、S級ヒーローが優勢のようだった。宇宙人もそれを理解したのだろう、内の一体を切り離し、宇宙船へ援軍を求めようとした。しかし空に飛び立つ前に叩き落される。青年がバットを振り降ろしたのだ。彼は次のスイングで、羽の生えた頭を粉微塵にした。ばらばらと肉片が落ちていく。

 流れるような一連の動きに、名前の脳は自分が見ている光景を上手く処理することができなかった。それだけ、彼らの立ち回りは人間離れしているのだ。映画か何かの一場面なのだと言われても信じられるに違いない。最初は宇宙人の脅威を伝えようと大声を出していたイアイアンも、今は名前の隣で沈黙している。彼にとっても、S級ヒーロー達の猛攻は、もしかすると信じ難いものなのかもしれない。
 次元が違う――名前は確かにそう思った。


 決着が付くのものも早いのではないか、とそう感じはしたのだが、やはり想像ほど上手くはいかなかった。バットで粉々に砕かれた頭ですらも、それぞれの肉塊が寄り集まって元通りに戻ったのだ。この宇宙人、本当に不死身なのだろうか。回復スピードは名前のそれよりも上だ。「――うん、いいと思うよ」
「決めた。お前は四肢を引き裂いて我々の船で飼う」
「治りやがったな、この野郎ッ」一番若いヒーローが、そう言って再びバットを振り下ろした。めこりと宇宙人の頭が凹む。「上等だオラッ! 永久にサンドバッグやってやがれ!」
「金属バットさん! 皆さん! 師匠! そいつに直接的な物理攻撃は、あまり意味が無いのかもしれません!」
 だから一度引いて、別の何かで攻撃する方法を考えましょう、と、イアイアンがそう言った。確かに一理ある。あの宇宙人も物理攻撃が効かないだけで、もしかすると高熱や圧力には耐えられないかもしれない。しかし――
「俺は殴るしかできねぇ、却下だ!」
「ワシにできるのもこれだけじゃ。年寄りは新しいことができんのでな」
「俺もだ。ごめんな、イアイアンちゃん」
「イアイ、お前俺を信用してねーのか? 俺に斬れないものはねぇ!」
 口を閉ざしたイアイアンのことが、少しだけ不憫に思えた。


 延々と治癒を繰り返す宇宙人との戦いに転機が訪れたのは、それから数分が経過した頃だった。宇宙人の弱点が判明したのだ。この宇宙人は体のどこかにビー玉のようなものを持っており、それを壊せば宇宙人は死ぬ。核のようなものだろう。S級ヒーロー達の対応は早く、次々とその核を壊していき、五つあった頭を残り二つまで減らしていた。

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