反則だと思った。刀で首を斬り落としても銃で心臓をぶち抜いても倒れない、そんな怪人を前に、名前は精一杯の虚勢を張った。これは反則だと思う。攻略のしようがないじゃないか。
 もちろん、それは名前だって同じだ。首から下を切断されようと、心臓を抉り出されようといつかは治る。そして生き返る。しかし、相手はそんな化物みたいなのが五人居るのだ。残機5、立派な反則じゃないか。レッドカードを叩き付けてやりたい。
 残る弾数は九発。死亡フラグしか見えない。
 後ろからは荒い息遣いが聞こえていて、名前の焦りが増す。立って逃げてくれたら良いのだが、五人を足止めできるかと聞かれると――やはり死亡フラグだ。主にお兄さんの。
 どうしたものかと悩んでいた時、不意に目の前の怪人五人が、上半身と下半身に分かれた。噴き出す怪人の血を眺めながら、名前は呆気に取られる。名前を、というかイアイアンを救ったのは、ヒーロー協会でそのトップを争うS級ヒーローだった。
「イアイ、無事だったか」

 ドサドサと生々しい音を立てながら、怪人の肉体が重力に従い落ちていく。怪人の向こう側に立っていたのは、侍のような格好をした一人の男だった。師匠、と叫ぶイアイアンの声に生気が戻る。名前は少し脇にずれ、師弟が対面できるようにした。やはり見覚えがある。というか、こっちの人についてははっきり覚えていた。スーパーで名前の食生活を無理やり改善させようとした、お節介男だ。
 何故覚えているのかというと、生まれて初めて生で見たちょんまげだったからだ。もっとも、S級ヒーローとして薄っすら記憶していたのも事実だが。
 しかし、強いヒーローというのはこうもレベルが違うのか。一刀両断したぞ、おい。イアイアンの繰り出す居合切りも信じられない速度だったが、その師匠は更に速い。
 ちょんまげの男が眉を顰めた。その視線はイアイアンの左腕があった場所に注がれている。剣士にとって、腕を失うということは大きな痛手なのだろう。見ている此方が痛くなりそうな、悲痛な表情だった。
 そしてやはり、怪人はすぐさま再生した。元通りの姿となって、侍のヒーローに襲い掛かる。

 名前の後ろから、イアイアンが叫んだ。「師匠! この怪人には剣撃の効果が薄い! 俺に構わず一旦退避を!」
「――邪魔だ」
 男が一度刀を振るっただけで、怪人が細切れになった。
 しっかりと見ていたのだが、訳が解らない。名前は自分の目で見た光景が信じられなかったし、男がまったく頓着せずに自分の弟子に話し掛けているのにも驚いた。普通、自分が倒した怪人のことを、もう少し気にするものじゃないのか。
 怪人の再生能力にも充分驚いていたのだが、名前には目の前の男の存在も信じ難かった。


「イアイ! お前の剣の道はまだ終わらせんぞ!」
 そこのあんた、と突然指名される。弟子の止血を手伝ってくれと侍は言い、名前も急いで頷いた。それから目を見開く。S級ヒーローの背後に、先の怪人が復活していた。今までの姿と違い、どうやら五人全員が合体したようだった。頭部が異様に大きく、目が十もある。
 怪人は笑った。この星に自分と互角に戦える生命体がいたのか、と。
 星――つまり、この怪人は他の星からやってきたのか。空に浮かんでいるあの物体は、隕石ではなければ戦艦でもなく、正しくは宇宙船だったのだろう。そして、どうやらこの生き物は怪人ではなく宇宙人と呼ぶ方が正しいようだ。もちろん人間に危害を加えているのだから、怪人には違いがないのだが。
 名前は宇宙人に背を向け、イアイアンの元へと駆け寄った。血は尚も流れ続けていた。ヴフフフフ、と、背後から怪人のくぐもった笑いが轟く。「いいだろう! 我々の侵攻に抵抗してみろ」

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