先にも述べた通り、名前のトレーナーとなった男は無口だった。というかぶっちゃけ、彼の声を聞いたのは最初に会った時だけだ。名前は彼の名前も知らなければ、どういう性格をしているのかも知らない。声は若かったように思うのだが。何分モノズであるから目は見えないわけで。
 ただ、時々思い出したように名前の頭を撫でてくれる彼を、凄く好きだと思う。それが名前個人としての思いなのか、彼のポケモンとしての本能なのかは解らない。何にでも噛み付きたいと感じるのに、トレーナーの彼にだけはその気が全く起こらないのは、多分その本能に寄るものだろうと思うが。

 ポケモンの本能といえば。
 名前には避けられないうえに巨大すぎる問題が一つあった。暗闇の世界も四足歩行も必要最低限の介護もボール内生活も、何とか慣れた。――というか、モンスターボールの中は快適だ。ボールを発明したのって誰だっけ? シルフカンパニー? とりあえず造ってくれた人ありがとう――問題は、ポケモンバトルだ。
 名前は野生のポケモンではない。つまり、トレーナーの言うことを聞かなければならない。彼が命令するなら、例え相手が100レベルのゼクロムであっても、玉砕承知で挑まなければならないのだ。例えが大袈裟だが間違ってはいない。トレーナーがバトルが嫌いで、コンテストとかポケウッドとかに入れ込む人なら良いんだけど。
「残さず食え……」
 さっきのご飯時、名前に与えられたポケモンフードの中にいくつかの錠剤が混ざっていた。明らかにオクスリだった。とくこうとすばやさが上がった気がした。残念なことに名前の飼い主となった男は、普通のトレーナーなのだ。残念なことに。

 ゲームの中じゃ、それこそヒットポイントが減るだけだが、自分が炎に焼かれたり飛び膝蹴りを喰らったりなんて恐ろしいにもほどがある。それ以上に他のポケモンを傷付けるのも怖い。


 食事にリゾチウムとインドメタシンが混入させられていた日から数日後、名前が恐れていたことがついに現実となった。つまり、ポケモンバトルをしなければならなくなったのだ。

 名前が導き出した結論はこうだった。――そうだ、シカトしよう。
 トレーナーの命令を無視するのは至難の業だった。なかなかに良心が痛む。しかし、肉体的に痛い思いをするよりずっとかマシというものだ。卵から孵った名前には、無論彼のトレーナーIDが与えられているし、バッジもいくつか持っているようだし、そもそもレベル1のポケモンがいう事を聞かないなんて有り得ない筈だ。
 名前のトレーナーは、いう事を聞かないモノズにかんかんに怒った。しかし名前は頑として指示を無視しし続けた。そっぽを向いたり、全く別の技を出したり、ふて寝をしたり。
 最終的にトレーナーが折れた。
 彼は名前に学習装置を持たせるに至ったのだ。とりあえず、第一関門は突破である。名前は何もしていないが、どんどんと経験値が溜まっている。なんか今ならかえんほうしゃもできる気がする。覚えないけど。ついでに、名前のバトルの相手だったタブンネは攻撃技を持っていなかったので、名前はまだ攻撃を受けたことがない。このままボックス行きにして欲しい。

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