ダンスパーティ

 階段を上った先の玄関ホールは、気の早い生徒達で溢れていて、やはり此処も色々な色の衣装がひしめき合っていた。名前とジャスティンがやってきた丁度その時、玄関の大扉がパッと開き、ボーバトンの生徒達が入ってくるところだった。先頭はマダム・マクシームで、その後をやはり色とりどりのドレスローブを身に纏った生徒達が歩いてくる。国による違いなのだろう、ホグワーツの生徒達に比べると、彼らは素晴らしくエレガントだった。名前は横に立っていたジャスティンがさっと消え、彼らの方へと歩いていったのが解った。
 レイブンクローのクィディッチキャプテンがフラー・デラクールの方へ歩いていく(残念ながら、顔は何度か見た覚えはあったのだが、キャプテンの名前は知らなかった)のを何の気なしに見ていると、段々と玄関ホールに人が増えてきた。ダームストラング生もやってきて、そのすぐ後には地下牢の方からはスリザリンの一陣がやってきた。名前のパートナーのノットも一緒だ。
「やあ、名前。あの……すっごく綺麗だ。よく似合ってる」
「……ありがと。セオドールも、よく似合ってるよ」
 名前も思わず微笑んでそう言った。
 ノットは深みのあるダークグレーのパーティー用ローブに身を包んでいて、彼の大人びた雰囲気を更に際立たせていた。彼が真っ赤な顔をしていたので、名前まで恥ずかしくなってきてしまった。
「アー……それじゃ」ノットが言った。丁度、大広間の扉が開かれて、生徒達がぞくぞくと中へと入っていくところだった。「僕達も行こうか?」
「そうだね」
 ノットがすっと腕を差し出し、名前はそれに手を添えた。

 大広間の中はいつもとかなり違っていた。例年通り十二本の巨大なモミの木が置かれていたが、その他にも、壁はキラキラとした霜で覆われていたし、天井からは柊やヤドリギがそこら中に垂れ下がっていた。寮ごとに別れて座るいつもの長テーブルは全て取り払われていて、代わりに十人掛けの小さなテーブルがあちこちに並んでいた。その上にいつもの金の皿と、ゴブレットが並んでいる。
 名前も流石にスリザリン生だらけの机に行くのは憚られたので、誘われたままに、ノットを促してフレッドが居るテーブルへと腰を下ろした。名前が腰掛けると、此方を見ていたフレッドが「おっどろいたな」と言った。
「本当に名前か?」
 名前はついっと眉を上げたが、フレッドは無頓着だった。
 彼の隣にはグリフィンドールのチェイサー、アンジェリーナ・ジョンソンが座っていて、その向こうにはジョージとそのパートナーも座っていた。どうやらジョージは、ダームストラング生とダンスをする事に決めたらしい。彼はその女の子に向けて次から次へと言葉を投げかけていたが、名前にはそのダームストラング生が一言たりとも理解できていないように思えた。まるっきり訳が分からない、女の子の顔に書いてある文字を読むならそんな感じだ。
 ここは教職員のテーブルに程近い席で、名前にはダンブルドアを含めた審査員の面々がよく見えた。マダム・マクシームは生徒達を眺めながら、時々ハグリッドの方を見てにっこりした(ハグリッドはいつぞやに見た茶色いモコモコした背広を着込んでいて、マダムに手を振られるとぱっと顔を赤らめた)。カルカロフはその山羊髭がいつもよりも更にぴっちりとカールしていて、気合いが入っているように見えた。バグマンは明るい紫色で黄色い星を散らせたローブを着込んでいて、誰彼構わずウィンクを飛ばしていた。しかし五人目の審査員席、座っているのはクラウチ氏ではなく、何故かパーシー・ウィーズリーだった。濃紺のローブを着ていて、角縁眼鏡がきらりと光った。
 百卓近く置かれた丸テーブルが埋まり終えると、大広間の扉がパッと開き、マクゴナガル先生を先頭にして、四人の代表選手とそのパートナーが大広間へと入ってきた。みんな一斉に拍手して、名前も手を叩いていた。
「クラムの隣に居るのって――?」
 思わず、という風に、ノットが呟いた。
「ハーマイオニーだよ」名前がにっこりしてそう答えると、彼は目を白黒させた。
「グレンジャー? 本当に?」
 ノットは名前に言われても、まだ信じられないようだった。
 名前はフラーよりもクラムよりも、ハーマイオニーが皆の注目を集めているのではないかと思った。名前でさえ、クラムのパートナーが誰だか知らなかったら、あの淡い青色のローブを着た可愛い女の子が、ハーマイオニーだとはなかなか気が付かなかったかもしれない。同級生の女の子達がひそひそと喋り合っていることに、名前はもちろん気が付いていた。彼女たちは悔しそうでもあったが、それ以上に羨望の眼差しをハーマイオニーへ向けていた。
 フラーとクラムの後を、セドリックとハリーが続いた。セドリックは黒のドレスローブを着ていて、いつもよりも数段ハンサムに見えた。緊張しているらしいハリーは、パートナーのパーバティに引っ張られるようにして歩いていた。どちらかと言うと、パーバティの方が楽しそうだ。彼らの顔の仔細までは到底見えなかったが、名前には強張ったハリーの表情が易々と思い浮かんだ。

 代表選手達が決められた席に着くと、金の皿が満たされる代わりに、丸テーブルの上にパッと小さな品書きが現れた。名前はどういう事だろうと考え込んだのだが、隣にいたフレッドは訳知り顔で「成る程ね」と言った。彼は教職員のテーブルの方を見ていた。
「こりゃ、ハーマイオニーが怒るかもしれないぞ」
「どうして?」名前が尋ねると、彼はちらりと名前を見遣った。
「『奴隷労働』ってやつさ」フレッドが言った。「チポラータ・ソーセージ」
 フレッドがそう言うと、彼の前にある皿にパッとソーセージの山が現れた。どうやら、クリスマスのダンスパーティ特別の趣向らしい。他のテーブルでも、続々と職員達の様子を真似する者が現れた。
「――私達は皆様方にご希望通りのお料理をお出し致します!」
 ジョージが屋敷しもべ妖精のキーキー声を出してそう言ったので、名前は思わず小さく噴き出してしまった。彼の隣ではアンジェリーナも笑っていたのだが、ダームストラングの女子生徒だけは意味が解らずに困惑顔をしているだけだった。
 最後のクリスマス・プディングもすっかり空っぽになると、金色の皿の数々はパッと消え失せた。ダンブルドアが立ち上がったかと思うと、彼は杖を振って、百近くもある円卓とその何倍もある椅子とを、一瞬にして壁際まで寄せた。教職員席の脇に即席のステージが出来上がったかと思ったら、すぐさまバグパイプやリュートといった楽器が並べられ、やがて妖女シスターズが登場した。熱狂的な拍手が送られると、彼らはさっと一礼してから、どこか物悲しい曲を奏で始めた。
 ダンスフロアだけが灯りに照らされる中、四組のペアが生徒達の前に立ち、ゆっくりと踊り始めた。ちょうどすぐ側までやってきていたセドリックは、レイブンクローのシーカーと踊っていた。名前は確か、チョウ・チャンだ。名前は彼女が幸せそうに、セドリックと見つめ合っているのを見た。セドリックの方も楽しそうだ。名前は彼が此方を向いた時、にやっと笑って小さく手を振った。セドリックが気が付いたかは解らないが。
 やがて、ダンブルドアとマクゴナガル先生がフロアへと入っていくと、他の大勢の生徒達もその後に続いた。フレッドはアンジェリーナを伴って勢いよく飛び込んでいったし、ジョージも同様だ。
「踊らないか?」
 ノットがさりげなく、そう言って腕を差し出したので、名前も頷いて彼の手を取った。

 ノットは意外にもリードが上手かった。名前は彼に従ってターンをしたり、簡単なステップを踏めばそれで良かった。名前はここ何日かの間、ハンナや他の女の子達に責め立てられるようにして、ちょこちょことダンスの練習をしていた。その甲斐があったというもので、名前はノットの足を踏み付ける事はなかった。
「ダンス上手だね」名前が言った。
「あー……昔、家でやらされてた事があるんだ。ほら、色々と面倒な事があるのさ」ノットはそう言ってはぐらかした。
 名前の視界には、ダンブルドアとマダム・マクシームが踊っているのが入っていた。ダンブルドアは通常より高い位置に手をやっていたし、マダム・マクシームは幾分低い位置に手を置いていた。しかしちぐはぐな外見とは裏腹に、彼らのダンスはとても優雅だった。
 その反対側では、ハリーとパーバティが踊っているのが見えた。どうも、やはりパーバティの方がリードしているように見える。しかし彼が以前心配していたようにハリーのダンス酷くなかったし、「みんなにジロジロ見られながら踊るなんて……」とぼやいていた割には楽しそうに見えた。
 ちょっと首を伸ばすと、ハンナの姿が見えた。彼女もその金髪を、名前と同じようにシニヨンに結い上げているが、名前は彼女の姿ならどれだけ人混みに紛れていても見つけられたし、その自信があった。ハンナは楽しそうだったし、彼女と踊っているアーニーも幸せそうだ。その向こう側では、チームメイトのコベットとアバンドンが手に手を取り合って踊っている。
「ほら、集中して」ノットがそう言って、名前の腰にある手をくいと動かした。
 名前が慌てて彼の顔を見詰め、危なっかしく足を動かすと、ノットは楽しそうに小さく笑った。

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