名前の脳みそが乱回転していた。今なら螺旋丸作れそう。
 えぬ、エヌ、N。
 ポケットモンスターBWで登場したライバル的キャラ。主人公の行く先々に現れるプラズマ団の王様で、緑の髪をしていて目が死んでる青年。特筆すべきことは、ポケモンと話しができるということだろうか。あ、あと女の子に超人気がある。
「……名前」
 あまりに驚きすぎて、うっかり普通に答えていた。あ、危ねえ……Nじゃなかったらアウトだったぞ……。
 『ポケモンと話しができる』Nは、名前が名乗った事に対して、勿論驚かなかった。
「名前? 良い名前だね。名前は外から来たわけじゃなさそうだから、多分ここにトレーナーが居るんだろう。どこに居るか解るかな」
 早口ぱねえ。
 ボーイソプラノのまま、てるてるてるてると続け様に話すN。理解はできるが、幼い子どもがこんなに聡明だとちょっと怖いかもしれない。これなら王様とか言われても素直に頷ける。いや、まあ、どのくらい幼いのかは解らないが。とりあえずゲームの時よりだいぶ幼い。

 名前は混乱していた。
 ポケモンの世界に来たということは解っていた。自分がポケモンになっていたからだ。イッシュ地方に居るのだろうということも解っていた。自分がモノズだからであり、周りに居るポケモンも、イッシュ地方のポケモンばかりだったからだ。ここはゲームの中の世界だろうとも解っていた。これは勘だ。
 しかしまさか、子どもの頃のNに会うとは。
 そして、Nって確か、野生児だったんじゃなかったっけ? BW2はまだ一度しかプレイしていなくて、正直なところうろおぼえなのだが、BWのオープニング場面、ヒヒダルマやゾロアと一緒に居る小さいNの絵は印象に残っている。Nの目がキラキラしているのは後にも先にもあの絵だけだ。とりあえず重要なのは、Nは森の中でポケモンと暮らしていたんじゃなかったかということだ。そして、此処は森じゃない。
 ……色々なフラグが立った気がするが、無視をしよう。それが良い。リテラシーが必要とされる昨今、必要ない情報をスルーすることだって大事なのだ。ここがプラズマ団のアジトじゃないかとか、というかNの城なんじゃないかとか、そうすると名前のトレーナーはプラズマ団員なんじゃないかとか――無視だ、無視。

 答えない名前に不安になったのか、Nが「どうかしたのかい」と言った。
 多分――多分だが、このNはまだ、目がキラキラしていると思う。
 名前は、彼の前でも口を利くのはやめておくことに決めた。他に人のいない森や山の中ならともかく、ここはそうじゃない。どこで誰が聞いているものか、解ったもんじゃない。Nの元から逃げ出した後、名前は一目散に部屋へ駆け戻った。脱走がばれていたらしく、トレーナーにぽかりと殴られた。散策はほどほどにしておいた方が良いようだ。

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