魔法省の機密情報

 ダンブルドアは咳払いして、ムーディが来た事によって中断されていた『ホグワーツで開かれる何か』についての話を再開した。生徒達はまだマッド−アイ・ムーディを見ていたが、ダンブルドアが話し始めた事で我に返り、そのまま耳を澄ました。
「これから数ヶ月にわたり、我が校は、まことに心躍るイベントを主催するという光栄に浴する。この催しはここ百年以上行われてはおらんかった。この開催を発表するのは、わしとしても大いに嬉しい――今年、ホグワーツで三大魔法学校対抗試合を行うことになった」
「ご冗談でしょう!」間髪入れず、向こうのテーブルでフレッドが叫んだ。
 絶妙のタイミングに、大広間に居た生徒達の殆ど全員が笑い出した。名前も同じく噴き出していたが、三大魔法学校対抗試合の事以上に、フレッドの発言にも興味がないらしいムーディに驚いてもいた。ムーディはひたすらに用意された料理を食べ続けていて、何が話されているか、生徒達がどう反応しているかなどまるで興味が無いようだった。もっとも、彼のブルーの目は、食事の間もずっとグルグルと動き回って、辺りを監視し続けてはいたのだが。
 生徒達は『三大魔法学校対抗試合』が何なのかや、どうして今年それが復活したのかと口々に話していた。名前はあいにく、トライウィザード・トーナメントに聞き覚えはあったが、どういう物かは覚えていなかったので、此方を見たハンナの期待には応えられなかった。名前は知らないと彼女に首を振って、ダンブルドアが再び話し始めるのを待った。
 笑いが萎んでいくと、ダンブルドアは口を開いた。彼はフレッドが言ったのを聞いて、自分も夏の間に聞いたジョークを話そうとしたが、マクゴナガル先生に遮られ、やがて三大魔法学校対抗試合について話し出した。

「さて、この試合がいかなるものか――三大魔法学校対抗試合はおよそ七百年前、ヨーロッパの三大魔法学校の親善試合として始まったものじゃ。ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの三校での。各校から代表選手が一人ずつ選ばれ、三人が三つの魔法競技を争った。
 若い魔法使い、魔女達が国を越えての絆を築くには、これが最も優れた方法だと、衆目の一致するところじゃった。夥しい数の死者が出るにいたって、競技そのものが中止されるまではの。何世紀にもわたって、この試合を再開しようと幾度も試みられたのじゃが、そのどれも成功しなかったのじゃ。しかしながら、我が国の『国際魔法協力部』と『魔法ゲーム・スポーツ部』とが、今こそ再開の時は熟せりと判断した」
 名前は魔法省の国際魔法協力部と、魔法ゲーム・スポーツ部の部長に、偶然にも夏の間に会っていた。対極的なあの二人、クラウチ氏とバグマン氏だ。名前はパーシーが勿体ぶって話していた例の事がこの事なのだと漸く理解した。
「今回は、選手の一人たりとも死の危険に曝されぬようにする為に、我々はこの一夏かけて一意専心取り組んだのじゃ。ボーバトンとダームストラングの校長が、代表選手の最終候補生を連れて十月に来校し、ハロウィーンの日に学校代表選手三人の選考が行われる。優勝杯、学校の栄誉、そして選手個人に与えられる賞金一千ガリオンを賭けて戦うのに、誰が最も相応しいかを、公明正大なる審査員が決めるのじゃ」
 ダンブルドアは、公明正大な審査員が誰なのかは説明しなかった。
 大広間に居る誰しもが、彼の言葉に期待で胸を膨らませて聞いていたが、最後の一言が一番強烈だった。賞金の一千ガリオン。それだけの大金があれば、向こう十年は遊んで暮らせるだろう。ある者は口をぱかりと開けてダンブルドアを見ていたし、ぎらぎらと目を輝かせて隣人と喋り合う者も居た。ダンブルドアが再び口を開くと、大広間は自然と静かになった。皆が次の言葉を待っていた。
「全ての諸君が優勝杯をホグワーツにもたらそうという、熱意に満ちておると承知しておる。しかし、参加三校の校長、ならびに魔法省としては、今年の選手に年齢制限を設けることで合意した。ある一定年齢に達した生徒だけが――つまり、十七歳以上じゃが――代表候補として名乗りを上げる事を許された」
 十七歳未満の生徒達の何人かが(一人や二人なんてものじゃなかった。生徒達の半分は、憤然とダンブルドアを睨んでいた)怒りの声を上げたので、ダンブルドアは少し声を大きくして話をした。不平不満が口々に吐き出される中でも、ダンブルドアの声はよく響いた。
「この事は、我々がいかに予防措置を取ろうとも、やはり試合の種目が難しく、危険であることから、必要な措置であると判断したが為なのじゃ。六年生、七年生より年少の者が課題をこなせるとは考えにくい――年少の者がホグワーツの代表選手になろうとして、公明正大なる選考の審査員を出し抜いたりせぬよう、わし自ら目を光らせる事にした。未成年の者が名前を審査員に提出したりして、時間の無駄をせぬように、よくよく願っておこう……」

 公明正大なる審査員をどうすれば出し抜けるかという話題が、生徒達の間でヒソヒソと話され始めた。名前が解る限りで、どこでも同じような会話がされていた。
 名前は別段、代表選手になりたいだなんて考えていなかった。自分の事は自分が一番解っているのだ。知識も呪文も、他の十七歳以上の生徒達には到底敵いっこないと知っているし、夥しい死者の一人になりたくない事も確かだ。横目で見るに、ハンナも殆ど名前と同じような意見らしかった。彼女はダンブルドアが「夥しい死者」と言った時、眉を顰めていた。
「ボーバトンとダームストラングの代表団は、十月に到着する」ダンブルドアが言った。「彼らは今年度の殆どの間を、ずっと我が校に留まる事になるじゃろう。外国からの客人が滞在する間、皆、礼儀と厚情を尽くす事を信ずる。更に、ホグワーツの代表選手が選ばれし暁には、その者を皆、心から応援するであろうと、わしはそう信じておる」
 ダンブルドアはそう締め括ると、生徒達にもう寮に戻るようにと促した。


 新しい監督生達が新入生を率いて歩くのを見る傍ら、名前はハンナとスーザンと一緒に、ダンブルドアが言う『公明正大なる審査員』とは一体誰なのかという事や、ボーバトンやダームストラングといった、外国の魔法学校の事、どういう基準で代表選手を選ぶのかという事について話し合った。
「ダンブルドア、ではないんでしょうね。あの口振りだと」
「魔法省から誰か来るんじゃないかしら」
「誰かってだあれ?」
「さあ……」ハンナはお手上げだという風に肩を竦めた。
「やっぱり、成績で選ぶのかしら」
「それだと首席の人が一番可能性が高いわよね。今年の首席って、確か両方ともレイブンクローじゃなかった?」
 名前は新しい首席が誰だか知らなかったし、十七歳以上の知り合いは殆ど居ないと言っても良かったので、誰がホグワーツの代表選手に選ばれるのかについては、あまり興味が持てなかった。三つの競技が何なのか(それこそ、今まで死人が出るくらいの酷い競技がどういう物なのか)を考えている方が、よっぽど楽しかった。

 階段を降り、迂回するように元の方角へと戻ると、一本の長い廊下に出る。大小様々な絵画が掛けられている、一本道の廊下だ。
 その廊下に掛かっている絵は食べ物の静物画ばかりで、時たま他の肖像画の住人が摘み食いに来る以外に、動くものは殆ど無いと言っても良い。ただ、この食べ物達はそのどれもがお喋りだ。ふとこの絵達の前で噂話でもしようものなら、たちどころに学校中に知れ渡ってしまう。
 ハッフルパフ生達は大きなバスケットの絵の前で立ち止まった。この奥に、ハッフルパフ寮が隠されているのだ。
「マーリンは杖を選ばず」
「その通り!」バスケットの中のブラックチェリーがころころと言った。
 静物画がするすると横へスライドし、人一人が通れるようなトンネルが姿を現した。一年生達はおっかなびっくり、上級生は頭をぶつけないようにして潜り抜けた。パッと目に飛び込んでくるのはメラメラと燃え盛る暖炉と、所々に置いてある黄色いクッションだった。
 監督生達が新入生に寮や談話室について説明しているのを後目に、名前達は奥のトンネルを潜り、それから左に折れて女子寮に向かった。二ヶ月前となんら変わっていない部屋の中には、屋敷しもべ妖精達が運んでくれたのであろうトランクが置いてあった。名前はさっさと寝間着に着替え、ハンナ達にぼそぼそとお休みを言い、それから天蓋付きのベッドに潜り込んだ。冷え込んでいたので、ベッドに入れてあった湯たんぽはありがたかった。元からそれほど関心が無かった事もあって、ベッドで微睡んでいる時には既に、名前は三大魔法学校対抗試合の事など、すっかり頭の隅に追いやっていた。

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