ホグワーツへの旅

 ウィーズリーおばさんと、二人のカートを置いてきてくれたビルとチャーリーは、駅のホームで揃って待っていた。名前はビルとチャーリーと握手をして、それからウィーズリーおばさんにぎゅっと抱き締められた。まさか自分もロン達のようにハグしてもらえるだなんて思ってもいなかったので、名前は夫人の腕の中に居る間、ずっとドギマギしていた。
「また来て頂戴ね、名前ちゃん。一緒に居られてとっても良かったわ」
 名前は自分でも何故だか解らないが赤くなりながら、此方こそと礼を言った。
「僕、みんなが考えてるより早く、また会えるかもしれないよ」
「どうして?」
 ジニーを抱き締めながらそう言ったチャーリーに、フレッドが突っ込んだ。
「今に解るよ。けど僕がそう言ったって事、パーシーには内緒だぜ……何しろ、『魔法省が解禁するまでは機密情報』なんだから」
 チャーリーはそう言って、にっこりと笑った。ビルまでもが「僕もホグワーツに戻りたい気分だ」と言ったので、魔法省の機密情報を知らない名前達は、益々何故なのか知りたがった。皆口々に彼らに質問したが、ビルもチャーリーも教えてくれなかった。やがて汽笛が鳴り、名前達はホグワーツ特急に乗り込んだ。
 どうやらウィーズリー夫人も、その機密情報の内容を知っているようだった。泊めて下さってありがとうございました、と言った三人に、夫人は微笑みながら「此方こそ、楽しかったわ」と言った。
「クリスマスにもお招きしたいけど、でも……ま、きっとみんなホグワーツに残りたいと思うでしょう。何しろ、色々あるから」
「ママ!」ロンが辛抱ができないという風に叫んだ。
「三人とも知ってて、僕達が知らない事って、何なの?」
 結局、ウィーズリー夫人は勿論、ビルもチャーリーも笑うだけで、ホグワーツで何があるのか教えてはくれなかった。列車が動き出し、最初のカーブを曲がり切る前に、三人とも姿くらまししてしまった。キングズ・クロス駅が見えなくなってからも、ロンはまだぶつぶつと言っていたが、七人の誰もが知らないので、どうにもならない事だった。各々自分の荷物を取りに行く為、そこで暫しのサヨナラをした。
 名前はジニーと一緒に列車の廊下を歩き、やがて少し後ろよりの、ノットが居るコンパートメントに辿り着いた。彼はやはり一人で座り、本を読んでいた。しかしドアの外に名前達がやってきた事を知ると、ノットは立ち上がってトランクを出すのを手伝ってくれた。
 彼は別に此処に居ても構わないと言ってくれたが、そこまで厄介になるつもりはなかったので、名前は預かってくれてありがとうと言い、それからジニーと一緒に歩き出した。車両を移る頃、ジニーが何故かひそひそ声で何かを言った。しかし列車ががたがたと揺れる音のおかげで少しも聞こえず、名前は聞き返した。
「何?」
「あの人、名前に気があるわ!」
 名前は少し眉を上げ肩を揺らし、「そんな馬鹿な」というジェスチャーをしてみたが、ジニーには一向に効かなかったらしい。彼女は興味津々で、確かあの人はスリザリンで、スリザリン生があんなに親切な筈がない、と言い張った。よっぽど色恋沙汰に関心があるのか、それともそれが名前の事だからか、ジニーは彼とどういう関係なのかと尋ねたが、名前は特に面白い事は言えなかった。ノットとは会えば話しをするくらいの仲だし、他には何もない。それに自分が恋をした事がないのに、誰かがそんな風に自分を見ているだなんて、信じられなかったのだ。信じられないというよりは、想像ができないと言った方がより的確だろう。

 ジニーはまだ色々と聞きたそうだったが、友達が集まっているコンパートメントを見つけると、名前とはそこで別れた。彼女と別れてからも名前は暫く歩き続け、やがてハンナが居るコンパートメントを見つけた。名前がドアを開けると、ハンナ・アボットは嬉しそうに名前を迎えてくれた。
 コンパートメントの中には、ハンナと、そして仲良しのスーザン・ボーンズしか居なかった。どうやら今年は、アーニーや、ジャスティン・フィンチ−フレッチリーとは一緒にはならなかったらしい。名前は二人に手伝ってもらい、トランクを荷台の上に上げる事ができた。
「ねえ、名前は知ってる?」スーザンがそう聞いた。
「何を?」
 名前は先程ビルに教えて貰った呪文(あれがあれば、服も髪の毛も一発で乾くのだ)を思い出すのに必死だったので、彼女が何を言いたいのか察する事ができなかった。
「今年、ホグワーツで何があるのか」
 ハンナの隣に座った名前は、首を横に振った。どうやら今まで、ハンナとスーザンはずっとその事を話していたらしかった。スーザンの伯母さんが魔法省に勤めているので、彼女はその伯母から、「今年のホグワーツは楽しくなるわよ」と聞いたそうだ。
「悪いけど、知らない。『機密情報』なんだって」
 名前はパーシーが言っていたままにそう伝えると、ハンナもスーザンも目に見えてがっかりした。二人とも、名前の保護者が魔法省に勤めていると知っているので、何か聞いているかもしれないと思ったのだ。名前はやっと呪文を思い出し、杖を振って服を乾かし髪の水気も取り払った。
「規則が変わったとか……あ、今年はホグワーツに戻りたいって言ってた。休暇取ってでも」
「……仕事を休んでまで、行きたくなる何かっていう事?」
 名前は曖昧に頷いた。三人は話し合ったが、結局先程と同じように、結論は出なかった。誰も決定打になる情報を持っていなかったからだ。名前は、ドレスローブが関係あるかもしれないと自分が考えている事を、何故だか言い出せなかった。もっとも、その理由は何となく解っていた。
 やがて、「そう言えば、名前はウィーズリーさんの所に行っていたんでしょう? どうだった?」とハンナが言った。夏休みに送った手紙の中で、名前はウィーズリー家と一緒にワールドカップを見に行くのだと伝えてあったのだ。スーザンは何故名前がウィーズリー家の所に居たのかも知りたがったので、名前はチケットが手に入った経緯から話し始め、やがて三人は夏休みの間に何があったのか、どこへ行っていたかをそれぞれ話し始めた。
 車内販売のカートがやってくるまで、名前達はずっとお喋りをしていた。三人で大鍋ケーキを食べながら、名前は此処にアーニーが居ない事を心底残念に思った。何故なら、ハンナもスーザンも、あまりクィディッチに興味がないからだ。もっとも、以前の名前も、それほどクィディッチを好いてはいなかったのだが。
 アーニーはワールドカップの決勝戦に来ていたので、あの感動を分け合える筈だからだ。名前がトロイやクラムと言っても、ハンナ達は少しも反応しなかった。ジャスティンが試合観戦に行ったかどうか、名前は知らなかったが、彼女達よりはクィディッチに関心があるに違いなかった。
 ハンナとスーザンは、森の中に居た時に、あの闇の印が空に上がったのを見たと名前が言うと、こちらが心配してしまいそうなくらい竦み上がった。
 名前はスキーターの書いた森から遺体が運び出されたという噂が真っ赤な嘘だと教え、それから二人の反応を見た。ハンナは名前が無事で良かったと言い、スーザンは眉根を寄せて考え始めた。
「あの人の部下がまだ沢山居るって事よね……」スーザンはそう呟いてから、自分が言った事に驚いたように、ぶるりと震えた。

 いつだったかのクィディッチの時にも負けないような土砂降りで、ホグワーツ特急の窓から見えるのは荒れた空と雨粒だけだった。景色を楽しむ事が全く出来ず、灰色ばかりが目に映った。名前は雷がごろごろ鳴る音が、遠くから聞こえてきた気がした。北へ向かうにつれ、辺りはどんどん暗くなり、ホグワーツへの道程をまだ半分も進んでいない内から全ての車内灯が点いた。やがて名前達は学校のローブに着替え、そしてとうとう列車はホグズミード村の駅に止まった。
 ホームの外では、森番のハグリッドが例年のように一年生を迎えていた。イッチ年生!と叫んでいる。その声は雨風に飛ばされていたが、彼は力強く何度も大声を張り上げた。名前はすっかり縮こまっている新入生に道を譲ってから(外は土砂降りのおかげで恐ろしく寒かったし、ハグリッドは初めて見る人を必ずぎょっとさせるので、彼らがブルブル震えていても無理はなかった)、ハンナ達と一緒に人の波に乗り、馬無し馬車の順番を待った。勿論、名前にとってはやはり「馬無し」ではない。やがて馬車がやってきてドアが開かれると、名前達は雨で濡れないよう急いでそれに飛び乗った。名前が見るに、セストラル達はこれほど強い雨の中でも、少しも嫌そうではなかったし、怯んでもいなかった。
 百余りある馬車の長い行列は、やがてゆっくりと動き出した。校門をくぐり抜け、大きくカーブした道を嵐に揺り動かされながら、ガタゴトガタゴトと馬車は進み、そして、ホグワーツ城へと生徒達を誘った。

[ 631/832 ]

[*prev] [next#]
[モドル]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -