ホグズミード

 リーが来たがっていたゾンコの悪戯専門店は、ハニーデュークスと同じように、ホグワーツ生で一杯だった。リーが行きたいだろうなと思ったから、名前はゾンコに行きたいのだと彼に言ったのだが、ゾンコの店はそんな事関係なしに、名前をワクワクさせた。お馴染みのクソ爆弾やら、名前が知らない悪戯道具まで、ありとあらゆる『危険な』仕掛けや道具が見渡す限り並べられていた。名前達は今日、フィルチの目をかいくぐってきていたので、よけいにゾンコの商品は輝いて見えた。
 数十分後、二人は再び大雪が吹き荒れている屋外に出ていた。その時にはリーのポケットも、そして名前のポケットまでも、ゾンコの悪戯グッズでパンパンに膨れ上がっていた。
 二人は次に、予定通り少し道を引き返し、ホグズミードでただ一つの郵便局へと向かった。郵便局の中は綺麗に整頓されてはいて、糞がそこら中に落ちているという事はないものの、ホグワーツの梟小屋と同じ匂いがした。
 色とりどり、大小様々な梟が居た。配達の速度や距離で、それぞれの棚に梟が分けられている。以前スーザンが言ったように、デメテルよりも大きな梟が居て(恐ろしいことに名前のデメテルは、梟小屋に居る梟達の中で、一番大きいのだ)、その巨大な梟は地球を一周しても平気だという、超長距離用だった。デメテルももしかするとブラジルまで行けるかもしれないと考えて、名前は思わず吹き出した。

 それから名前とリーは、色々な所を回った。大吹雪のおかげで人が少なかったため、寒かったが、人混みが嫌いな名前には好都合だった。魔法用具店のダービシュ・アンド・バングスでは、二人ともクリスマス・プレゼントを買った(名前は名付け親へのクリスマス・プレゼントとして、挿むたびに柄が変わる栞を買った)。クィディッチ専門店にも寄ったし、洒落た喫茶店は外から覗いた。
「ハリー?」名前が独りでに飾りの替わっていく小型のツリーに見取れている時、リーが言った。
 ショーウィンドウから目を離して彼が見ている方を向くと、確かにそこにはハリー・ポッターが居た。ハーマイオニーとロンも一緒だ。ハリーはぼうっとしていたようだったが、リーと名前に気付いて、小さく手を振った。しかし、どうにも違和感がある。その正体が何なのか名前は少し考えて、ハッと気付いた。
「ハリー! 一体どういう理由があって、そんな格好してるわけ?」
 名前は駆け寄りながらそう言った。他の二人はちゃんと着込んでいるのに、この雪が降りしきる中、ハリーはまるで部屋の中に居るような格好をしていた。マント無し、マフラーも無しだ。名前は正直、マントとマフラーをしっかり巻き付けていても寒かった。
 それなのに、どうしてハリーはこんな気違いじみた格好をしているんだろう。
「凍死でもする気か?」名前の後から来たリーが言った。
「僕――」ハリーはゆっくりと言った。「――うっかりしてたんだ」
 名前とリーは顔を見合わせた。
「うっかりって……ホントに凍え死んじゃうじゃないの!」
 名前は言いながらも、ロンとハーマイオニーが気まずそうに目配せし合ったのを目撃した。名前はハリーが、実はホグズミード行きの許可証にサインを貰えなかったことと、フレッドとジョージに隻眼の魔女像の抜け道を教えてもらって此処に来たということを知っていたため、そんな二人の様子は気にしなかった。名前は自分のマフラーを取り、ハリーに無理矢理巻き付けた。
「お古だけど、無いよりはマシでしょ」
「名前、でも――」
「でもじゃない!」名前はハリーが何かを言おうとするのを遮った。
「いい? ハリーはあたしの友達だし、友達が凍え死んで大見出しなんて嫌よ」
 名前がわざとらしくそう言うと、リーが小さく吹き出した。
「気になるんなら、クリスマスにマフラーをくれない?」
「うん……うん、ありがとう、名前」
 三人が行ってしまうと、名前はリーに聞いた。
「まさか、フレッドとジョージが無理矢理連れてきたんじゃないよね?」
「まさか」リーは否定したが、もしかしたらもしかするかもしれない、という響きを含んでいた。

 二人はその後、名前が提案したグラドラグス・魔法ファッション店に行った。何故グラドラグスに行く事にしたのかというと、女の子にクリスマス・プレゼントを贈りたいのだとリーが言ったからだった。
 リーが打ち明けた事には、名前にホグズミードを案内したのも、どんなプレゼントを選べば良いのかと、名前にアドバイスをして欲しかったからという思惑があったかららしい。リーが潔くそう言った時、名前は思わずくすくすと笑ってしまった。そんな事、名前は全然気にしていないのに。
 プレゼントを贈りたいのは誰なのかと聞くと、リーはアンジェリーナ・ジョンソンだと素直に言った。彼はこの間のクィディッチの事もあったからか、名前に少しだけ申し訳なさそうな様子だったが、その事も名前は全然気にしなかった。むしろ、リーが女の子にプレゼントだなんて、と名前は面白がった。それに、グリフィンドールのチェイサーのジョンソンが、名前から見ても格好いい女の子である事も確かだった。
 彼女の事はクィディッチの時しか知らないが、リーはさっぱり解らないと言うので、名前はマフラーとか手袋とか、そういったオーソドックスなものはどうかと勧めた。だからグラドラグスに来たし、リーがキラキラと点滅するマフラーと、赤と緑の縞模様が縦になったり横になったりするマフラーを見比べている間、名前はあれこれと指図してからかった。
 十五分後、二人は店の外に出た。リーはプレゼント用にラッピングしてもらった手袋を買ったし、名前はクリスマスのプレゼントとしてリーが買ってくれた、淡いグラデーションが動いていくショールを巻いていた。
「リー!」名前達の後ろから、悲鳴じみた声がした。
 二人が振り返ると、赤毛の二人組が急いで歩いてくるところだった。歩いてというよりも、小走りでの方が正しいぐらいだった。まるで競歩でもしているかのような二人に、リーはやあと声を掛けたが、フレッドとジョージは返事を返さなかった。
「こんの……ばかちん! 一体こんな日に何やってるんだ?」
 フレッドが言った。リーと、それに名前は彼が何故怒っているのか解らず、目を丸くさせた。
「……何って名前と歩いてるんだけど。君達こそ何を――」
「ばかちん!」今度はジョージだ。
「こんな吹雪の日に女の子と外を歩いてるだなんて、正気か!」
 フレッドとジョージの必死の形相に(二人は普通の時でもそっくりなのに、怒った表情までそっくりだ)、名前とリーは顔を見合わせ、プッと吹きだした。リーが「ユーモア第一って言ってたのはウィーズリーさんの家の双子じゃなかったかな?」と言うと、二人がムキになって言い返したので、名前とリーはますます笑った。
 強引に二人分のマフラーを巻かれた名前は、フレッドとジョージも一緒に三本の箒へ行こうと誘った。彼らの手が冷たかったからでもあったし、人数は多ければ多いほど楽しいと思ったからだ。四人で三本の箒のパブに向かった。

 三本の箒には沢山の人が居て、知った顔がいくつもあった。何人かは「やあ」とか、「名前!」とか言って名前に声を掛けた。ハンナもその内の(しかも、眉を吊り上げて名前の名前を叫ぶ方だ)一人だった。目を丸くさせたハンナはもう店を出るところで、口をあんぐりと開けて名前を見たけれど、結局話しはせず、名前は「あとで」と口パクで彼女に伝えた。もちろん、ホグワーツ生以外も沢山居て、名前は鬼婆ではないかと思われるフードを被った人も発見した。
 フレッドとジョージは実は名前達に出会う前、この三本の箒に居たらしく、注文を取りに来た店の女主人(マダム・ロスメルタというらしい)は、不思議そうな顔をして二人の顔を見ていた。四人は一つのテーブルを占領して、お喋りしたり、二本のバタービールの大瓶を分け合いっこしながら(フレッドとジョージは何も頼まなかったのだ)残りの時間を過ごした。
 ハリーの事を彼らに聞くと、確かに自分達は秘密の抜け道を教えたと言った。しかしフレッドもジョージも、彼に教えた後はすぐに別れたので、ハリーが実際にホグズミードに向かったのかは知らなかったと言った。彼らは、ハリーがどうやら二人と別れた後、すぐにあの隻眼の魔女像に向かったらしいという事よりも、彼がちゃんとハニーデュークスの地下まで辿り着き、ホグズミードにきちんと来れた事の方に関心を示していたようだった。
 三本の箒を出た後は、名前とリーはフレッド達と別れ、ハニーデュークスに向かった。名前達はまだホグズミードを探索するつもりだったのだが、妙な騎士道精神を発揮したフレッドとジョージが、断固として許さなかったため、今日はこれでお開きにすることにしたのだ。
 あの叫びの屋敷に行けなかった事は残念だったが、ブラックが捕まって吸魂鬼の配備が終わった後の楽しみに取っておこうと、名前は決めた。
 ハニーデュークスは来た時と同じように甘い匂いで溢れ、人がごった返していたが、それでも先程よりは少なくなっていた。高く積まれた棚から欲しいものを取るのは一苦労だったが、名前は蛙チョコレートや、ドルーブル風船ガムなどを大量に買い込んでとても満足した。再びリーと一緒に抜け道を通って、名前はホグワーツに戻った。


 寝室の自分のベッドで寝転んでいると、しばらくしてハンナやスーザンが帰ってきた。スーザンはマフラーを取ったりコートを脱いだりしたのに、ハンナは真っ先に名前のベッドにやってきて、わざとらしく閉めてあったカーテンを捲った。
「あなた、三本の箒に居たでしょう」
「まあ、ほんとなの、名前?」
 ハンナが腰に手を当て、名前に問い詰めた。名前がにっと笑っているのは、隠す気がなかったからだ。スーザンにも聞こえるように「うん」と返事をし、名前はどうして、そしてどうやってホグズミードに行ったのか、その一部始終を話した。
 ハンナは呆れこそすれ、怒ったりはしなかった。
「そうだ、セドリックも、名前がホグズミードに来たのに気付いてたわよ」
 名前は何も言わなかった。もしかしたらセドリックには、ハニーデュークスの地下室から出てきたのを見られたかもしれないし、三本の箒でバタービールを飲んでいる時、その場に居たかもしれなかった。
「どうして一緒じゃないのかって聞かれたんだから」
 スーザンが小さくくすくす笑いをし始めたが、名前は無視した。
「別に、あなたが抜け道からホグズミードに行こうと、ダイアゴン横丁に行こうと構わないわ。だって言ったって、あなたったら聞かないんだもの――」
「ダイアゴン横丁は無理だよ、流石に」
 名前がそう茶々を入れると、ハンナはフンと鼻から息を吐き出した。
「――私が言いたいのはただ、私だってあなたと一緒にホグズミードへ行きたいと思ってるって事なのよ。あなたがいくら秘密の抜け道の魅力に惹かれたからって、それを忘れないで欲しいわ」

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