とっておきのクリスマスプレゼント

 やってきた十二月は、足早に過ぎていった。
 ホグワーツが白く染まりきる頃には、既に城内にクリスマスの飾り付けが施され始めていた。大広間にはハグリッドが切り出してきたモミの木が並び始めていたし、教室に入れられた妖精の光は溢れてきらきらと瞬いている。廊下の至る所にヤドリギが取り付けられ、クリスマス独特のムードを盛り上げていた。哀れな鎧達がピーブズに教えられた、クリスマスソングの下品な替え歌を合唱するのもいつも通りだった。

 結局名前はセドリックに謝らなかったし、二人の仲はこじれたまま休暇を迎えようとしていた。
 名前・名字とセドリック・ディゴリーが揉めたらしいという事は、次の日にはハッフルパフ中に広まっていた。少しだけ心配していたのだが、名前は誰からも、セドリックを責めた事に対して咎められるという事はなかった。レイブンクロー戦の前から二人が喧嘩している事を皆は知らなかった筈だから、名前がセドリックに負けた責任を押し付けているように見えたに違いないなかった。しかし咎められるどころか、セドリックとの諍いについて誰からも何も言われなかった。
 おそらくあの後セドリック本人が、これは自分達の問題だから口を出さないで欲しい、というような事を言ったのだろう。好奇心満載の視線が向けられる事はあったが、本当にそれだけだった。
 スーザンやアーニーが何かを言いたそうに名前を見てくる事はあった。しかしハンナが口添えをしてくれたようで、結局の所、彼らも何も言わなかった。
 例外はチームメイトの皆で、彼らは名前とセドリックが喧嘩をしているらしいと知ってから、最初の内は二人の仲違いをどうにかしようとそれぞれ奮闘していた。チームの士気に関わるからという事なのだろう。しかしどちらも折れる様子が無いことを悟ると、早々に諦めていた。その後はどちらの味方をするでもなく、ただ二人ともを刺激しないように務めているらしかった。


 名前達ハッフルパフ三年生の今学期最後の授業は呪文学だった。教師陣の中でクリスマスを一番楽しみにしているであろうフリットウィック先生は、飾り付け用に妖精を配置させる時と打って変わって、大量の宿題を出した。
 インセンディオに始まり、煙突飛行粉による魔法火やドラゴンの噴く火、サラマンダーの火やグブレイシアンの火といった様々な魔法の炎について、それが燃える為の要素とそしてそのそれぞれの炎の特徴や用途などを、名前達は羊皮紙二巻きに纏めなければならなくなった。フリットウィック先生がにっこりと微笑んでそれを告げた時、呪文学が苦手な名前を始めとして、羊皮紙二巻きという量に何人かが低く呻いた。
「何で休暇が始まるっていうのに、こんなに宿題を出すんだ?」
 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、教室を飛び出た後、ザカリアスがぼやいた。
 大量に宿題が出されたのは呪文学だけでなく、魔法薬学は勿論のこと、変身術、闇の魔術に対する防衛術、占い学なんかまで膨大な量の宿題を出した。名前が取っていない、数占いやマグル学もきっとそうだろう。
「その答えはね、休暇前だから」
 ザカリアスの独り言に名前が答えると、彼は思わぬ返事があった事に対し驚いたような顔をしたものの、はっきりと頷いてみせた。
「ああ。ほんと、狂ってるぜ」


 次の日は土曜日で、大した予定も入っていなかった為、名前は思いっきり朝寝坊をした。名前が着いた時、談話室は思いの外がらんとしていた。もしかして自分はクリスマス休暇が始まる日付を間違えて覚えていたのかと、一瞬名前は焦ってしまったのだが、それならハッフルパフの談話室にこうして人が(確かに少ないが)居る筈はない。
 今年、ハッフルパフ生でホグワーツに居残るのは名前一人だけだった為、本当に休暇が始まっていたならこれは有り得ない事なのだ。去年スリザリンの継承者騒ぎのせいで、一昨年よりも家に帰らない生徒が少なかったのだが、今年は更に少なかった。スリザリンの継承者が狙うのはマグル生まれのみ、しかしブラックは無差別の大量殺人者。そういう事らしい。
 談話室でぺちゃくちゃとお喋りしているのが名前よりも年下の生徒ばかりで、名前は少し経ってからやっと納得した。今日はホグズミード休暇なのだった。
 そう言えば確かにハンナ達、つまり同室の女の子達が、楽しそうにショッピングの計画を話し合っていた。名前は元から以前と同じく行くつもりはなかった為、彼女達が話している事について、あまり集中して聞いていなかった。そしてその後、大分遅い時間まで本を読んでいたから、すっかりホグズミード休暇なのだという事が頭から抜け出ていた。
 ハンナもスーザンも、起こしてくれれば良かったのに。いってらっしゃいぐらい言いたいし、(実際そうなのだが)置いて行かれたみたいだ。しかし、前回楽しそうにしているみんなを見て、名前が内心羨ましく思っていたというのも事実だった。だから、こうしておはようと挨拶できない時間に起きるぐらいの方が、丁度良かったのかもしれない。

 名前はその日を、本を読んで過ごす事に決めた。地下にある寮の為に特別につけられた窓から見た校庭は真っ白で、大吹雪の中、外に出るのは躊躇われた。となると、城の中で出来る事は限られてくる。自分の部屋に戻って大人しく宿題をやる、というのも良い選択かもしれなかったが、休暇に入る前に宿題に手を付けるのは何だかちぐはぐで、癪だった。
 朝食の時間は大分過ぎていたが昼食の時間にはもう少し、そんな時間だったので、名前は図書館よりもまず大広間へ行くことにした。ゆっくりと、辺りを散策しながら歩いていけば、丁度良い時間になるだろう。知らない通路を発見できるかもしれないし。

 名前は普段大広間に行くには遠回りな為に使わない、絵画裏の隠し通路を通った。そして出た通路を更に行ってすぐの階段を上る筈だった。軽い衝撃の後、名前はぶつかった相手に手を掴まれたおかげで、後ろにひっくり返る事を免れた。
「ごめんよ……って、名前?」
「リー? こんな所で何してるの?」
 名前にぶつかって、それから名前を引っ張り起こしてくれたのは、グリフィンドールのリー・ジョーダンだった。彼はマントを着て、マフラーを首に引っ掛けていた。どう見ても、今から出掛けますといった装いだ。
「そりゃこっちの台詞だぜ。グリフィンドール塔から大広間に抜けるには、この道を通った方が早いんだ。名前こそ、こんな所で何してるんだ? ホグズミードに行かなかったのか?」リーが聞いた。
「まあね。リーこそ行かなかったの?」
 名前が聞くと、リーは小さく肩を揺らした。
「さっきまで罰則だったんだ。バーベッジのやつしつっこくて。まあ、半日で終わらせてくれた事に感謝すべきかもしれないけど」
 マグル式で教室を徹底的に掃除させられたらしく、リーは小さく肩を回した。こきり、と肩が鳴らした小さな音が名前にも聞こえた。
「俺は今からホグズミードに行こうと思ってるんだけど……何だ? 本当に行かないのか? それとも嫌いなのか、ホグズミード?」
「まさか。嫌いじゃないし、行きたくないわけじゃないよ」
 名前の煮え切らない返事に、リーは「ふうん」と言った。
「原因はディメンターか?」名前が答えずにいても不思議がらず、リーは続けた。「うちの寮の奴にも何人か居るよ。一回行っただけで、もう勘弁って奴。名前もそのクチなんだろ? 誰だってあんなのの前を通りたくないもんな」
「あたし、実は前の時も行ってないの」
「何だって? じゃあ一度もホグズミードに行った事が無いって事か?」
 名前が頷くと、リーはとても驚いた。名前はそれ以上言わなかった。吸魂鬼に会いたくないからだなんて、子どもっぽすぎて言えやしなかったのだ。しかしリーは大体の事情を察したらしく、名前が何故行かないのかだとかを追求しなかった。

 何かを考え込んでいたリーはやがて口を開いた。
「マフラーと、それからマントも持ってこいよ」
「何で?」名前が聞くと、彼は小さく笑いながら言った。
「ホグズミードに行くからに決まってるだろ」
 名前が口を開く前に、リーは言った。
「要は、吸魂鬼に会わなきゃ良いわけだろ? だったら話は簡単だ。名前、俺がとっておきのクリスマスプレゼントをプレゼントしてやるよ」

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