じゅういち

 ベンチに腰掛けたまま、目の前で繰り広げられるポケモンバトルを眺める。名前のメタモンは、次から次へとへんしんし、トウヤの猛攻を全ていなし切っていた。そりゃ、ミルホッグの攻撃も難なく防ぐ筈だ。
 トウヤのポケモンが倒れる様をぼんやりと眺めていると、頬に当たる冷たい物体に思わず飛び上る。トウコはミックスオレをチェレンに寄越すと、双子の片割れが苦戦しているのを見ながらニヤニヤ笑った。
「今どんな感じ?」
「六対二」
「あら」トウコはけらけらと笑う。「また六タテかしら」

「トウコ、僕は……名前さんが、プラズマ団だと思ってたんだ」
 意外そうに此方を見遣る彼女に、チェレンはまだ話を続けても良いのだと判断する。
「Nと知り合いだったし、それに……」
「それに、あの人ちょっとむごいところあるわよね」トウコが言葉を続けた。「バトルすると解るもの」
「前に言ったじゃない? 名前さんは強いって。でも、単純にバトルが強いだけじゃないのよね。体力の減った子をあっさり切り捨てるところとか……バトルが強いのは確かなんだけど、私には真似できないバトルスタイルだわ」
 トウヤにもね、と彼女は付け足した。

 バトルサブウェイでの一部始終を話すと、トウコは笑った。マルチトレインに居たプラズマ団の殆ど一人で倒してしまったこともそうだが、クダリに変装していたことを話すと文字通り腹を抱えて爆笑した。
「あの人、バトル狂なのよ」トウコが言う。
「だからギアスステーションに来てたのよ。多分ね。――チェレンは気付いてないかもしれないけど、あなたと名前さんはよく似てるわよ。まあ、同族嫌悪ってやつでしょうね、あなたがあの人を気に入らないのは」
 同族嫌悪――そうなのだろうか。言われてみると、そうなのかもしれない。その言葉はやけにしっくりとチェレンの心に当て嵌まった。

 名前という男は、チェレンが望む全てを持っていた。別に、『確かめ』なくともチェレンには解っていたのだ。この男が自分の望む全てを持っているのだと。ポケモンバトルに強いことも、物事を冷静に見る沈着さも。
 それを素直に認めたくなかった。
 幸いなことに、名前がそうと思わなくとも、世間一般的に名前は駄目人間であるので、あまり自分に嫌悪感は抱かなかった。
 チェレンの抱く気持ちを感じ取ったのだろうか、タブンネが不安げにチェレンを見上げる。心の底から名前を嫌っているわけではないのだと、彼女の頭を撫でやる。タブンネは自分の主人を好いている。そういえば、チェレンはこのタブンネが名前のパートナーポケモンだと思っていたのだが、そうではなかった。確かにタブンネはいつも名前と行動を共にしているし、大切にされているようだが、先日バトルサブウェイで見た他のポケモンの方がより育てられていた。

「……あら」トウコが声を漏らした。
「あっ」
 チェレンも思わず目を見開く。
 名前のメタモンが地に伏した。気絶している。二人が目にしたのは、元の姿に戻ったメタモンが、モンスターボールの中に吸い込まれる場面だった。名前のポケモンが倒されるのを見たのは初めてだ。やったわね、トウヤ! と、隣に座るトウコが言おうとしたが、その言葉は途中で途切れた。新たなボールを構えた名前が不敵な笑みを浮かべていたからだ。

 結局その後、トウヤのポケモンは後続のガラガラに全て戦闘不能にさせられた。もうやだあの人怖い。

[ 468/832 ]

[*prev] [next#]
[モドル]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -