避けることの出来ない災難?

 クィディッチ競技場に来ていた生徒は、マホニーが予想した通りマーカス・フリントだった。
 フリントとセドリックは少しの時間立ち話をしていたが、やがてその話し合いは終わり、フリントは帰っていった。遠くで見守っていた名前達はすぐさまセドリックに駆け寄り、彼がやってきた事の真相を聞いた。


「僕ら、仲直りすべきだと思うんだ」
 唐突なフレッドの言葉に名前は事態が飲み込めず、ただ困惑するしかなかった。掬っていたシチューを一度皿に戻してから、名前はフレッドが詳しく話すのを待った。泥だらけで、しかも真紅のクィディッチローブを着たままのフレッドが、一体名前と何を仲直りするというのか、名前には全く解らなかったのだ。そのフレッドの後ろには、同じように泥だらけのクィディッチローブを着ているジョージが居て、名前とフレッドの行く末を見守っている。
 しかしフレッドも名前の反応を伺っているようで、お互いが無言で見つめ合っていた。
 数分間でもジッとしているだろう二人に、ジョージが見かねて助け船を出した。彼の言うところによると、フレッドは先日、大広間で名前がチェイサーになった事を確かめた後、無言で立ち去り、そしてそのまま数日間口を利かなかった事を言っているらしい。
 ジョージが話した事を聞いても、名前はまだフレッドの意図する事が解らなかった。
「ほら、僕らが喧嘩してても何の得にもならないだろ? 名前がクィディッチ選手になったのなら、それはそれで良い事もあるしな。今まで以上に名前がクィディッチ・トーナメントに関心を持つって事は、今まで以上に君と一緒にクィディッチについて語り合えるって事だ」
 だから、仲直りの握手。フレッドは言った後、笑顔で右手を差し出した。
「ね、そもそもあたし達、喧嘩してたの?」
 名前が言うと、フレッドは「そう言われればそうだ」とあっさり同意した。
 数日間口を利かなかったと言えば利かなかった訳だが、実際には廊下で二人に会った時などに、ジョージだけは名前に挨拶して、フレッドの方はわざとらしく顔を背ける、そんな程度だった。あれが喧嘩といえるのかすら怪しいところだ。名前がフレッドに何か尋ねれば彼は首を振るなりなんなりして普段通り答えてくれたし、名前自身、彼と喧嘩しているつもりなど甚だ無かった。
「まあ良いや。取り敢えず、握手」フレッドが言った。
「右手に持ってるベッタリくっつきトリモチを外した後なら良いけど?」
「なんだばれてたか」
 フレッドは何ら気にする様子もなく、ベッタリとトリモチを剥がした。
「まあ、君に失礼だったなって思ったから、こうして謝りに来たのさ」そう言ってフレッドはさっさと名前の手を取り、ぶんぶんと握手して、それから笑った。

 これからが本題だという風に話し出したフレッドと、そして同じく名前に話すジョージに、名前は大丈夫だと首を縦に振り続けた。彼らは次の土曜に迫っていたハッフルパフとグリフィンドールの、クィディッチの試合の事について話をしに来ていたのだった。
 あろう事か名前のクィディッチの初試合は、十二月ではなく、十一月に替わった。そして、初戦の相手はレイブンクローではなく、グリフィンドールに替わったのだ。先日クィディッチ競技場に来ていた、スリザリンチームのキャプテンであるマーカス・フリントは、試合の日程変更を頼む為、セドリックを尋ねてきていたのだった。
 フリントの申し出は、シーカーであるドラコ・マルフォイの怪我が未だクィディッチをプレイ出来る程には治っていない為、対グリフィンドール戦を替わってくれないかという事だった。セドリックも最初はわざわざ頼みに来たフリントを不審がっていたし、今年のハッフルパフチームには新人の選手が二人も居て、出来れば今年の最初のクィディッチは出来るだけ遅くにしたいと考えていたのは事実だった。しかしフリントの言い分を聞いて、そういう事なら仕方がないと、セドリックはスリザリンの交渉を承諾したのだった。
 その話を聞いた時、まさか試合が早まると思っていなかったチームの面々は皆、それぞれ苦虫を噛み潰したような顔をしたが、実は試合の日付が変更になった事で一番困ったのは名前だった。名前は試合で使う箒を自分で買うまでジョージに借してもらうつもりだった為、急遽入ったグリフィンドール戦で、箒を借りる事が出来なくなったのだ。これから後数日の内に、早急に箒を調達しなければならなかった。

 名前の手持ちのお小遣いでは、未だ中古の流れ星すら買えなかった。借りる予定だったジョージ自身がグリフィンドールの選手なのだから、どうやっても箒を借りる事は出来なかった。貸してくれる可能性のあったフレッドやハリーも同様だ。
 練習の時に、オリバー・ウッドから対戦相手がスリザリンからハッフルパフに変わった、と教えられたフレッドとジョージは、練習で疲れているだろうに、自分達が夕食を食べる事すら放り出して、名前の元へ来てくれたのだった。泥だらけの二人に顔を顰める生徒も居たけれども、名前は二人の心遣いが嬉しかった。
 なんなら、奴らの部屋全部に糞爆弾でも仕掛けに行こうか? 名前も一緒に行くか?と真剣な顔で言ってくれた二人に、名前は首を横に振った。自分で何とか箒を調達する、と言った後、フレッドもジョージも未練を残していた(箒の事より、スリザリンチームへのイタズラについての方が、重要だという風に聞こえた)ようだったけれど、最後には「お互い、フェアに頑張ろうぜ」と言い残して去っていった。

「名前、ついにクィディッチをやるのね」
 二人が行った後、隣に居たハンナが言った。名前がこっくりと頷くと、ハンナは心配そうに「大丈夫かしら」と言って、眉を下げた。
「嫌な人達ね。代理なり、出せば良いじゃない」露骨な嫌そうな顔を隠しもせずスーザンが言った。
「仕方ないんじゃない? 怪我してるって言うんだから」
 名前が言うと、そうだけどと、スーザンは不満げに言った。以前からスリザリン生を良く思っていない彼女は、どうやらそうとうご立腹らしい。
「それでウチが負けたら、あの人達恨むしかないわよ」
「あらまあ、負ける事前提?」
 名前がにっと笑って聞くと、そうじゃないわ、とスーザンは怒ったように言った。
「こんな天気で、不利になるに決まってるじゃない」
 数日前からから降り始めていた雨は、今日も止んではいなかった。それどころか雨足はどんどん強くなっており、魔法ラジオの天気予報によると、週末は雷が鳴るほどの嵐になるそうだ。

 スリザリンチームがそんな天気でプレイしたくない為、日程を替わってくれないかと頼み込んだのは解りきっていたが、それでもセドリックは承知した。ある者は分別のない親切心だと言って貶したが、天候など申し出を断る理由にはならないし、スリザリンのシーカーが怪我をしている事は事実だったのだから、その頼みを断るわけには行かなかった。申し訳なさそうに頭を下げたセドリックを、チームの誰も責めはしなかった。

 試合の変更を知って、今のスーザンのように、不満気にチームを見るハッフルパフ生は少なくなかった。
「そうかもね」名前は肯定した。
「でも、勝てば良いんだから、良いんだよ。それにどうせその内グリフィンドールとも当たるんだから。あっちも条件は同じだし、もしスリザリンと替わってなかったら、スリザリンはシーカーが怪我してて、ベストのチームじゃなかったって事になるわ。フェアじゃないでしょ。……まあそれに、もしかしたら二月の試合は大雪で、今の方がマシかもしれないしね」
 名前が試合変更の事が広まってから何度も言った、その台詞を言い切った時、ちょうど遠くの方で稲光が走った。ただでさえ最弱と、影で罵られているハッフルパフが、勝てる確立は低くなるのは必至だろう。
 スーザンは名前の言い分に一応は頷いたものの、やはり不満気だった。やっぱり、スリザリンなんて嫌な人達ばっかりだわ、と彼女は呟いた。
「お願いだから、怪我だけはしないで、名前」ハンナがそう言った時、再び雷が光った。

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