雨夜の星

 オレは彼女を尊敬していた。彼女は強く、そしていつでも明るく振る舞い、弥彦と小南、そして俺が核と成すこの組織の中でも、重要な存在だった。仲間の死も今まで何度も見てきた。しかし彼女は一度たりとも屈さず、オレ達は彼女に引っ張られるように目的へと進んでいた。
 弥彦が死んだ時も、彼女はいつも通りだった。
 彼女は強いから泣かなかった。彼女は明るいから皆を励ました。オレ自身も、何度となく彼女に励まされた。弥彦を失った痛み、オレは組織のリーダーとなり、そしてペインとなった。組織は雨隠れの半蔵に痛みを知らしめてやる為、そして世界に平和をもたらす為と動き出した。

「お前は強いな」
「……ペイン?」
 オレの呟きを聞いた彼女は、訝しげな目でオレを見た。
 その日も、雨隠れの里はいつものようにしとしとと雨が降っていた。組織の構成員が次々と変わっていく中、彼女だけは少しも変わらなかった。オレは彼女の明るさに、何度も救われていた。マダラが何らかの思惑を持ってオレ達を利用しているのだとしても、小南と弥彦、そして名前の事を想えば何とでもできるとオレには思えた。彼女が居てくれたからこそ、オレはこうして前を向いて歩いていける。
 気付けばオレは、口を開いていた。
「オレはお前が泣き言を言っているのをみた事がない。昔からそうだ。お前は皆を笑わせてくれたし、お前が柱になってくれたからこそ組織として成立してこれた分もある。オレはお前が居てくれたから――」
「――ペイン!」
 彼女がらしからぬ、怒鳴り声を上げた。
 オレはぎょっとして、彼女を振り返った。そして、彼女の頬が濡れているのを見た。
「勝手な事言わないで。わたしは強くなんかない。強くなんかないのよ、長門。本当は、弥彦が死んだ時だって大声張り上げて泣きたかった! でも、でも、わたしは泣いちゃいけなかったから、だから――」

 そっと、そっと抱き締めると、彼女はオレにしがみついた。
 そうだ。彼女に頼り切っていた所もあった。いつも辛い時、オレ達は彼女に縋った。彼女の底抜けの明るさが、いつでもオレ達を救ってくれた。そして彼女を救っていたのは、弥彦ただ一人だった。オレは、彼女が弥彦をずっと見ていた事を知っていた。
「弥彦、弥彦――」
 静かに涙を流す彼女を、オレはきつく抱き締めた。
「……ああ」オレの声は、弥彦の声だ。


 ――言ってはいけないことだった。
 言ってしまえば、彼女が崩れてしまうとオレには解っていた。ずっと見てきたから、解っていた。彼女には、ずっと雨の夜に光る星だった。そこにあるとは解っていても姿は見えず、決して手の届かない遠い存在だった。けれどオレは、それ以上に彼女に触れたかった。もしかしたらと思ってしまった。もしかしたら、オレは弥彦の代わりになれるんじゃないかと。
 雨は降り続いた。今日は一日中降り続く手筈になっている。この腕の中の小さな人の気が済むまで、こうしていようと思った。それで彼女が泣き止むなら、彼女の支えに少しでもなってやれるなら、オレはそれで良いと思ったのだ。
 弥彦の亡骸で作られた天道は、彼女を抱き締める為には少し屈まなければならない。オレはその日、日が沈むまで彼女の背を撫で続けた。

[ 34/832 ]

[*prev] [next#]
[モドル]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -