はるのひ

※アニメ設定

 私は春が好きです。暖かく、全てが見守ってくれているような気がするからです。
 段々と春の陽光が暖かみを増してゆくにつれ、死武専にも活気が満ちてゆきました。生徒達はみな生き生きとして、私はとても嬉しく思いました。私は友人達が嬉しそうに話しているのを見る事が好きでした。春はそれが、他の季節よりも更に暖かいのです。
 私が春を好きなのは、他にも理由がありました。

 あの人と出会ったのは、春でした。私があの日、デス・シティーの外へと出る事の出来ない死神様へ、街の外の砂地で咲いた一輪の花を差し上げに行かなければ、私はジャスティンさんと出会う事はなかったでしょう。
 彼はデスサイズスであり、もちろん私は彼の名前を知っていました。私達職人は皆、パートナーを彼のような立派な武器にする事を目標としているのです。デスサイズスの方を知っているのは当然と言えましょう。しかし私は彼という人自身は知りませんでしたし、彼もまた、私の事など知る由もなかったのです。
 ジャスティンさんは死神様へと花を差し上げに行った私にひどく感激され、それから度々私に声を掛けてくださるようになりました。彼は心の底からと言って良いほど、死神様を尊敬しておられます。それは傍目からも解る事であり、私も彼を知る以前から、彼が死神様に心酔している事は存じ上げていました。

 私がそんなジャスティンさんを好きだと思うのに、それほど時間は掛かりませんでした。


「私、ジャスティンさんが好きです」


 今この子なんつった?
 おっといけません、汚い言葉を使ってしまいました。神に仕えると決めたその日から、清く正しく生きると決めたのです。言葉の乱れはあらゆる乱れを引き起こしますから、言葉の清らかさは全ての基本だと僕は思うのです。
 ぽつり、と、意識せぬままに飛び出たらしきその言葉。
 僕の見間違いだったのでしょうか? 彼女は僕の方を見向きもしていません。視線すら合いません。もっともそれは、僕が文庫本を片手に黙々と、其れを読んでいるフリをしているにすぎないからなのですが。彼女は優しい女性です。人が良しとしないことをするような方ではありません。彼女は僕が相手もせずに、ひたすら書物と仲良くしていようとも、怒ったりせず、ただ隣で待っていてくれるのです。
 ジャスティンさんが好き?
 この場合、この部屋には彼女と僕しか居ないのですから、彼女が呟いたジャスティンさんというのは僕の事である筈です。ジャスティンさんが、好き?

 もし彼女の言葉が、僕が彼女に抱いている気持ちと同意義の言葉であれば、これほど素晴らしいことはないでしょう。オオー神よ、素晴らしい日をお与え下さり感謝します。彼女が僕が、彼女の言葉が聞こえていないと錯覚させてくれたイヤホンにも、感謝を。
 僕は特に行動を起こす事もなく、ただゆっくりと頁をめくりました。
 願わくば、彼女がもう一度愛を語ってくれる事を信じて。そうすれば、僕は躊躇する事なく本を捨て彼女の手を取り、囁き返す事ができるでしょう。もう一度言って下さい、と。

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