じゅう

 何が何だか解らなかった。ただ解るのは、何十人ものプラズマ団団員が前に居るのに、少しも恐怖を感じないということだ。むしろ隣に立つ男の方が、何倍も怖い
――やっと、チェレンは理解した。
「君達プラズマ団のこと、色々調べたけどすっごく生温い! 叶えたいことがあるなら、もっと本気でやらなくっちゃ。他の何を犠牲にしてでもね」
 いい加減笑ってるの疲れちゃった、そう呟くクダリの顔からは、笑顔が消えていた。
「君達は、ポケモンを開放したいんでしょ? だったらどんなことでもやらなくっちゃ。まさか、一人相手に大人数は卑怯だとか言わないよね?」

 挑発が功を奏したのか、それとも――恐怖に駆られたのか。
 団員の一人が手持ちのミルホッグをクダリにけしかけた。クダリに飛び掛かったミルホッグを、その前に立ち塞がった黒いコートの男が防ぐのと、息を切らせながら現れたベルが「名前さん!」と叫ぶのは、ほぼ同時だった。

 ノボリの姿がぐにゃりと変わり、頭を締め付けられたミルホッグが悲鳴を上げる。
 突如として現れたガブリアスは、ミルホッグを一撃で瀕死にさせると、大きく咆哮した。プラズマ団員達が皆一様に身を震わせる。
「――そうそう。そうこなくっちゃね」
 いつの間にか、クダリは――白いサブウェイマスターの姿をした男は、両手にモンスターボールを握っていた。中から現れるのはチェレンが実物を見たことがなかったポケモン、イッシュ地方ではあまり見られないポケモンだった。二体のどちらもが恐ろしいまでに育て上げられている。
「だいじょーぶ、僕、君達に破壊光線うったりしない! でも、一人一人相手しなくちゃならないのって、とってもメンドー! ――だからみんな一緒に掛かってきて」
 表情の無かった男の顔に、狂気染みた笑いが浮かんでいた。


『それで? ロケット団最強の幹部が、一体お前に何の用だったんだ、アポロ?』
 通話先の声の主は軽い口振りだったが、先程までとは明らかにその言葉の意味するものが違う。男の言葉には――ラムダの言葉には、どこか期待しているような、高ぶる気持ちを無理やりに押さえつけているような、そんな響きがあった。『ついにやるのか?』
「――……いいえ」
 摺り寄るヘルガーの頭を撫ぜながら、水色の髪の男はそう呟いた。そしてもう一度、「いいえ」と呟く。アポロと呼ばれたその男の脳裏に浮かぶのは、自分が最も慕う男の顔と、自分と同じように彼に付き従った男の顔だった。

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