きゅう

 一、二回のコール音の後、懐かしい声が耳に響いた。顔は見えないが、多分ニヤニヤと意地の悪い笑いを浮かべているのだろうと思う。
『よお。珍しいじゃねえか、お前から連絡なんて』
「白々しい。用件は解っている筈です」
 やはり、犯人はこの男だった。苛々と指で膝をついていると、傍らのヘルガーが心配そうに自分を見上げた。大したことではないのだと、彼の頭を撫でてやる。
「あなた、私の電話番号を教えたでしょう」
『ありゃ』通話先の相手がそう声を漏らす。『バレちった?』
「私の今の連絡先を知っているのは、あなたを含めて数人しか居ないのですよ」
 なるほどなあ、と、特に感心したような調子もなく声の主が言う。
『可愛い後輩の頼みだからさあ』男は笑っていた。


 ノボリとクダリの後を追って、チェレンはついにマルチトレインの先頭にやってきた。大勢のプラズマ団員を前に、チェレンは僅かながら動揺する。思っていた以上に数が多い。その数ざっと三十余人。二人のサブウェイマスターが居るとはいえ、この人数は明らかに苦しいんじゃないだろうか。二人連れで挑まなくてはならないマルチトレインだから、その分人数を割いたに違いなかった。
「なっ――」
 しかし、動揺していたのはチェレンだけではなかった。

「なっ」プラズマ団員の一人が、悲鳴のような声を漏らす。「何で此処にサブウェイマスターが居るんだ!」
「スーパーシングルとスーパーダブルの連中はどうした?!」
「マズイマズイマズイマズイプラズマズイ!」
 プラズマ団員達の間に混乱が生じていた。チェレンでさえ、それがはっきり解る。しかし、彼らの動揺は異常なほどだった。例えて言うなら、死人の筈の人間を目の前にした時のような――
「な、何だって!」
 後方の方で声が上がる。「サブウェイマスターと交戦中? 防戦一方? スーパーに人を寄越せないか? ……なっ、何言ってるんだ! こっちにサブウェイマスターが来てるんだぞ! ……じゃ、じゃあこっちの二人は誰なんだよ! あっ、お、おい!」

 相も変わらず、ノボリは無表情だ。しかし――しかしクダリは違っていた。いつもと同じく笑っている。しかしその笑みはどこか人間味の感じさせない、冷たい笑いだった。チェレンは背筋に冷たいものが流れたような心地がした。
 ふと思い出したように、クダリがチェレンに振り返った。
「ク、クダリさん……?」
「約束、破っちゃった。また今度ね」

「ぼくクダリ」クダリが囁くように言う。「サブウェイマスターしてる」
「――本物の方はね」

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