恋人が変態なんです何とかして下さい

「キリサキングさんの二の腕たまらんです!」
「……私が言うのもなんだけど、キミ、ほんと変態臭いよね」
「ありがとうございます!」
 べったりと寄り添うように隣に座っている小柄な怪人を尻目に、キリサキングは小さな溜息を吐いた。

 どうも彼女、名前は、キリサキングに好意を抱いているらしい。つまり、恋愛感情だ。愛。ラブ。呼び方は色々あれど、キリサキングにはいまいち解らないが。執着心の延長のようなものだろうか。しっくりこない。しかし、そもそも切り裂くだけしか能がないような自分を、どうして名前が好きになったのか。そこから解らない。自分が好かれる容姿でないことは確かだ。
 キリサキングが何も言わないのを良いことに、名前はべたべたとキリサキングの二の腕を触っている。筋肉の盛り上がりを確かめるように触ったり、包帯をなぞるように触ったり。何が楽しいのかは名前のみぞ知るだが、いやにこそばゆくて、さっさと飽きて欲しいと思う。心なしか、彼女の鼻息が荒いような気がする。きめえ。
 最初の内、キリサキングは彼女を退けようと奮闘した。名前が自分を好きだろうが嫌いだろうが、誰かに纏わりつかれるのは好きじゃない。しかし何度口で言い聞かせても名前は聞き入れず、実力行使に出たこともあったが彼女はへこたれなかった。彼女が怪人協会の一員でなければ、是非もなく切り裂いてやったのに。いくらキリサキングだって、仲間を細切れにしてはいけないことくらい解っている。結局、キリサキングは彼女の執念に折れたのだった。鬱陶しいこと以外に、問題があるわけでもない。

「ほんと、キリサキングさん良い体してますよね……その黒衣の下は! 黒衣の下はいったいどうなってるんですか!」
「やめてよ……名前ちゃん本気で気持ち悪いよ」
「ありがとうございます!」
 言葉のキャッチボールをして欲しい。
 名前の方も流石に服を脱がそうとまではしてこないようで(一瞬戦闘を覚悟したのだが)、熱っぽい視線をキリサキングの二の腕、それからその奥の胴体へ向けるだけだった。その熱に浮かされたような顔は普段の彼女からは想像もつかないほどに艶めいていて、興奮状態にあることが解る。まったく、彼女の気が知れない。そりゃ、キリサキングだって興奮することくらいはあるが――人間を細切れにしている時とか、切り裂いている時とか――その対象が自分だと思うと悪寒が走る。
 キリサキングは尚も自分の二の腕を握ったり揉んだりしている名前を見遣った。その四肢はすらりと長く、引き締まっているが出る所はちゃんと出ていて、顔も整っているときている。人間に近しい姿をした彼女は、人間で言うなら美しい部類に入るのではないのか。世の中はどこかしら狂っているのだなあと、キリサキングは思う。
「名前ちゃんも、結構……良い体、してるんじゃないの」キリサキングが呟いた。「私は、そう、思うけど」
「ドキィ! 褒められた!」
 ふざけたような物言いだが、彼女の顔は薄紅色に染まっていて、それが照れ隠しだと解る。「まあ私のこれは所謂サイボーグなので、見た目は自由に変えられるのですよ。でも嬉しいですえへへ」
「あっそ……」

 キリサキングの呆れ顔にも、名前は物ともしなかった。彼女の白い指先がつつつと刃の方までなぞり始め、思わず右腕を引込める。あん、と口惜しげな声。彼女の方を見遣ると、彼女もキリサキングをじっと見上げた。
「危ないでしょ。切り裂いちゃうじゃない」
「キリサキングさんに切り裂かれるのは、実のところ本望なのですが――」名前がどこか期待しているかのような表情で言う。「――そのお言葉は私へのデレだと判断しても! いいでしょうか!」
「きもい」
「ありがとうございます!」
 やっぱりこの子、変な子だなあ……。
 再びえへえへと笑いながら二の腕を触り始めた名前に、キリサキングは今度こそ大きく溜息をついた。

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