5.イケナイコトは後で叱っても無効です

 ぞんざいに髪の毛を拭いていると、後ろからどたばたと足音がして、「名前!」という声と一緒に圧し掛かられた。ぐぇっと蛙の潰れたような声が出る。番犬マンは名前名前と名前を呼びながら、名前の首筋に顔を埋めた。彼の首輪がまだ火照っている素肌に当たり、その思わぬ冷たさにひゃっと悲鳴を上げる。
「お帰り、番犬マン」
「……ただいま」
 番犬マンはぴたりと身動きを止め、ゆっくりと身を引いた。それからじっと名前を見る。ぽたぽたと髪から滴が垂れていくのを感じながら、名前も番犬マンを見詰め返した。どうしたのだろう。ひょっとして怪我でもしていて、痛みを堪えているのでは。しかし彼の表情に苦痛の色は窺えない。訳も解らず、内心で首を傾げる。
「名前、風呂入ってたの」
「うん。悪いんだけど退いてくんない。髪の毛まだ乾かしてないから」
「良い匂いがするね、名前」
「お風呂から出たばっかだからね」
「本当に、良い匂いだ」
「ね、髪の毛乾かしたいんだけど」
 名前の言葉が終わるか終らないかの内に、番犬マンが再び名前の首元に顔を埋め、その首筋をべろりと舐め上げた。いやに温い彼の舌が上下したのをその身で感じ、名前は独りでに身震いする。
「ちょ、番犬マン、さん?」
「好きだよ、名前」
 彼はそう言って今度は唇に柔らかなキスを落とした。名前が何を言う隙もなく、頬に額にと次々とキスの雨を降らせていく。あ、駄目だ――こいつスイッチ入ってやがる。いくら押し返しても無駄だった。番犬マンは名前の制止の声も聞かず、あくまで強引に事に及んだ。


 次の日目を覚ますと、すぐ後ろに番犬マンの気配を感じた。どうやら起きているようで、彼は名前が目覚めるのをただじっと待っていた。気まずい沈黙の中、名前は狸寝入りを続けようとしたのだが、背を向けているにも関わらず、番犬マンには目が覚めたことはばれていたらしかった。番犬マンはそっと名前の二の腕の辺りに手を添え、ごめんねと呟いた。まったくだ。
「駄目って、言ったのに」
 名前がそう言うと、番犬マンは再びごめんねと言った。「君が可愛すぎるのがいけないんだ」
「でも、押せば通るんだな。またやろう」
「駄目だったら!」
 不穏な呟きに思わず起き上がれば、番犬マンはへにゃりと笑っていて、つられて名前も微かに苦笑したのだった。何だかんだで、名前は番犬マンに弱いのだ。それが彼を好いているからなのか、それとも別の理由からなのかは解らないが。

「名前」
「何?」
「もう一回やる?」
「駄目!」

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