4.鼻が利くので内緒事に敏感です

 パトロールから帰ってきた番犬マンは、いつものように名前に抱き着こうとした。甘んじてそれを受け入れてやろうと、半ば諦めて両腕を開いた時、番犬マンがぴたりと動きを止めた。そのまますんすんと鼻を鳴らし出す。何だこいつ。
 名前が内心で首を傾げていると、番犬マンは微かに眉間に皺を作り、「他の男の匂いがする」と言った。
「はあ?」
「具体的に言うとゾンビマンの匂いがする」
「番犬マンぱねえ」
 若干呆れつつそう呟く。名前が今日、S級ヒーロー・ゾンビマンに会っていたのは事実だった。否定しない名前を見て、番犬マンはますます眉根を寄せた。
「浮気許さない」
「違うよ」
「浮気だめ」
「だから違うって」
「浮気」
「違う!」
 名前がどれだけ否定しても、番犬マンはぎゅっと顔を顰めたままだった。どうやら信じてくれないらしい。
「嘘。三時間くらい一緒に居た匂いがする」
「あんたの鼻どうなってんの?」
「浮気だ」
「違いますって……もー……」

 結局折れたのは名前だった。何せ、怒った時の番犬マンは恐いのだ。普段がぼんやりほわほわしているものだから、余計に恐い。もっとも別段怒っているわけではないらしかったが、流石S級と言うべきだろうか、彼から発せられる威圧感は半端なものではなかった。
 名前は暫く口をもごもごさせていたが、やがて言った。「番犬マンの、プレゼント、を、何が良いかって相談に乗ってもらってたの」
 番犬マンはぱちくりと目を瞬かせた。もうすぐ誕生日でしょうと言えば、彼はやっと気が付いたという風に頷いた。こいつ、自分の誕生日忘れてやがったな。
「なんか、ごめん」
「私も悪かったけどさ……」
「ごめん」
 気まずそうに頭を掻く番犬マンに、名前は笑った。

「でも」番犬マンが言った。「それはそれとして他の男の匂いさせてる名前はむかつく」
「番犬マンの鼻が異常に良過ぎるだけだからね」
「消毒」
「ああ……もう好きにして」
 ぎゅうぎゅうと締め付ける番犬マンは、やっぱり大型犬だと思う。



 後日、番犬マンは件のゾンビマンと鉢合わせた。ゾンビマンはまったく悪びれた様子もなく、自分に会うなり顔を顰めた番犬マンを見て、その様子じゃちゃんと受け取ったらしいなと笑った。
「君のセンスが良いのは認めるけどむかつく」
「それは褒められてんのか? それとも喧嘩売られてんのか?」

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