3.適度にコントロールしてあげましょう

 首輪首輪とせがまれ、嫌々購入して番犬マンにあげたのだが、彼は至極嬉しそうにしていた。名前は内心、マゾの気があるのではと心配している。年中着ぐるみを着ているだけならともかく、流石に首輪付けた人と一緒に歩きたくはないなあと思ったのだが、番犬マンがあんまり喜んでいたので結局はどうでもよくなってしまった。

 今日の番犬マンは一際不機嫌だった。一体どうしたのだろう。家に戻ってきた彼は、何も言わずに名前を抱き締めた。真正面から抱きすくめられて、いっそ息苦しいほどだ。何かあったのかと尋ねれば、曰く、「僕ばっかりが名前を好きみたいだ」。
「……ハァ?」
 此方を見下ろす番犬マンは仏頂面で、名前は内心で首を傾げる。番犬マンは頬を膨らませたが、可愛くとも何ともない。
「僕ばっかり好き好き言って。それなのに、君からの返事はごく僅かじゃないか」
 そうだろうか。そうだったかもしれない。
 まあ何というか、好意を口にするのは気恥ずかしいものじゃないか。もっとも、番犬マンが気にしなさすぎだということもある。彼がやたらめったら好き好き言うのは、絶対に一般的ではないと思う。彼に比べたら、おそらく大半の人が恥ずかしがり屋ということになるだろう。名前もその一人だ。
「考えてもみてよ。嫌いな人と一緒に住まないでしょ」
「名前」
 むうっと眉を寄せているその様は、まるっきり大きな子供だと思う。名前は苦笑した。
「番犬マンは、強くて優しくて格好良いなー」
「もっと言って」
 胸板に顔を押し付けられるようにして抱き直されたので、番犬マンがどんな表情をしているのかは解らないが、その声の調子からさきほどまでの不機嫌そうな様子は薄れていた。安上がりな人だ。
「ほんと、番犬マンくらい良い男は居ないと思うなー」
 彼の尻尾が揺れているように見えたのは、幻覚だろうか。番犬マンは自分ばかりが好きだと言うと言ったが、名前は名前で、もう取り返しがつかないほどに彼を好いているのだ。どうもその思いは伝わっていないようだが、それならそれでいい。
「番犬マンのこと、好きだよ」

 その照れ臭い一言は、やっとのことで名前の口から絞り出された一言だった。しかし、それは名前の羞恥心を一旦脇へ置いておく為の一言でもあった。一度その照れ臭さを払拭してしまえば、あとは結構どうとでもなる。
「ヒーローとして頑張ってるところとか、すっごく強いところとか、どんな怪人でも倒しちゃうところとか」
 番犬マンが固まった。
「落ち着いてるくせに懐っこいところとかも好きだし、存外正義感に熱いところも好き。番犬マンが帰ってくるたび嬉しいし、涼しい顔して甘えたがりなところも凄い好き。着ぐるみの下は結構がっしりしてるところも、見た目より力持ちなところも好き。番犬マンの顔も声も全部す――」
「も、いい。解ったから」
 垣間見えた彼の顔が真っ赤に染まっていて、珍しいものを見たと名前は思わずくすくすと笑った。白いコスチュームに、赤面した彼の顔は対照的だ。番犬マンは不貞腐れたように口を尖らせ、「君はずるいね」と呟いた。

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