2.褒めてあげるとよく頑張ります

 いつ出現するとも知れない怪人を相手に日々奮闘している番犬マン、そんな彼が帰ってくる時間帯はまちまちなのだが、その都度抱き着かれることは今や日常に溶け込んでいる。夕飯を食べていても、テレビを見ていても、洗濯物を干していても、寝ていても、何をしていても彼は抱き着いてくるのだ。充電とか何とか言って。しかし朝起きて、番犬マンに一晩中抱き着かれていたのだと気付いた時の倦怠感と来たら、計り知れないものがある。以前は返り血を滴らせていても構わず襲い掛かってきたが、この頃ではそういう場合はまず犬のスーツを脱ぐので、彼の方も進歩はしている。
 この日は特に白い毛も汚れておらず、名前もソファーに座ってぼんやりと本を読んでいるだけだった。帰ってきた番犬マンはただいまの挨拶もそこそこに、名前の隣に腰を下ろすと、覆い被さるように抱き着いてきた。こうやって真っ先に向かってくるところとか、本当に「犬」っぽいなあと思う。もっとも名前は犬を飼ったことはなかったし、そもそも番犬マンの飼い主になった覚えはないのだが。
「名前、今日は怪人倒したよ」番犬マンが言った。
「偉いね」
 名前がそう返すと、番犬マンはどこか誇らしげな表情で名前を見下ろす。
「災害レベルは鬼だった」
「凄いじゃん」
「車に轢かれそうになってた猫も助けた」
「偉い偉い」
「あと、喧嘩も仲裁した。喧嘩両成敗」
「偉いねえ」
「おばあさんの荷物も持ってあげた」
「さすが番犬マン」
「妊婦も助けた」
 名前と番犬マンは見詰め合う。
「ねえ、どこまで本当の話なの?」
「猫まで」
「お前……」
 半ば呆れている名前を物ともせず、番犬マンは熱い眼差しで名前を見詰め続けている。
「褒めて」
「……はいはい」
 ぐりぐりと頭を押し付けてくる番犬マンは、やっぱり犬のようだと思った。飼ったことないんだけど。頭を撫ぜてやれば、番犬マンはくすぐったそうに目を細める。
「僕は、名前が褒めてくれるから頑張るんだよ」番犬マンはそう言って笑った。

「犬か……」
「番犬マンだからね」
 得意げに胸を張った番犬マンに、二人で笑った。


「でもさ、私生活まで犬に成り切らなくても良いんじゃない? いっそ首輪でもあげようか」
「本望」
「!?」

[ 528/832 ]

[*prev] [next#]
[モドル]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -