はち

 バトルサブウェイにプラズマ団が現れた。トウコからその知らせを受けたチェレンとベルは、急いでライモンシティへと向かった。その途中、名前のアパートにも足を向ける。プラズマ団が現れたのはギアスステーションだけではないかもしれないし、そうでなくとも、引き籠りのヒモもどきニートだって一応はトレーナーだ。手伝ってもらえることがあるかもしれない。
 しかしながら、名前は家に居なかった。
「なっ、なんで居ないのお?!」ベルが半ば泣きそうになりながらそう叫ぶ。
「とにかく――」チェレンは自分がそれほど衝撃を受けていないことに驚きつつ、冷静に言った。「――バトルサブウェイに行こう。名前さんも、もうトウヤ達と一緒に居るのかもしれないよ」


 バトルサブウェイはいつもと違い、辺り一面に緊張の糸が張り詰められていた。しかし、どうやらギアスステーションに居たプラズマ団は、トウヤとトウコが倒していったようだ。鉄道員の話では、残るは各トレインに残ったプラズマ団だけらしい。シングルトレインとスーパーシングルトレインにはトウヤとサブウェイマスターのノボリ、ダブルトレインとスーパーダブルトレインにはトウコとクダリがそれぞれ向かったそうだ。
「ベル、僕達はマルチトレインに行こう。ちょうど二人だしね。君のムンナのテレポートで何とか行けないかな」
「うん、大丈夫だと思う!」
 鉄道員がご協力感謝致しますと敬礼している横で、チェレンとベルは一瞬に姿を消した。

 ムンナのテレポートによって、二人は無事にマルチトレインに辿り着いた。大勢のポケモントレーナーがそれぞれ不安げな面持ちで居るここは、どうやら最後尾の車両らしい。乗客の殆どがこの車両に集められているようだ。チェレンはそこで、見知った黒と白を見付けた。
「ノボリさんにクダリさん?!」

 逆三角形に口を引き結んだ黒い車掌と、その正反対の口の形をしている白い車掌は、やはりノボリとクダリだった。戸惑っているらしいベルの手を引き、彼らの元に向かう。
「ノボリさん達はシングルトレインとダブルトレインに行ったって聞いたんですが……」
 ノボリを見上げるが、彼は口を閉ざしたままだ。答えたのはクダリだった。
「そう。でもそっちは片付いちゃった」普段と同じく、こんな時でもクダリは笑顔だ。「――二人が来たからもう安心。二人はここをお願い。僕達、先頭に居るプラズマ団をやっつけてくる!」
 え、と思う間もなく、サブウェイマスターの二人は踵を返した。
「ま、待って下さい! 僕達はお手伝いに来たんです! 人のポケモンを奪うプラズマ団は許せません!」
「わ、わたしも……!」
 クダリがちょっと足を止め、振り向きざまに言った。
「解った! でも誰かは残ってないといけない。チェレンだけ一緒に来て。ベルちゃんはみんなのボディーガードをお願い」
 白い車掌はそう言ってから、おもむろにモンスターボールを取り出した。中から出てきたのはタブンネだった。ギアスステーションに来る前まで名前のことを考えていたからだろう、偶然現れたタブンネにどきりとする。
「僕のタブンネ、すごーく強い。タブンネはベルちゃんのボディーガード!」
 タブンネはベルを見上げ、「タブンネー」と小さく鳴き声を上げた。ベルは渋っていたが、とうとう一人でここに残ることになった。チェレンとクダリは先に車両の連結部まで行っていたノボリを追い掛ける。振り返ると、タブンネが手を振っているのがちらりと見えた。よく知る名前のタブンネより、どこか頼りがいがあるような気がした。

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