さあどっち

 恋人のクダリには双子の兄が居る。一卵性の双子で、制服と表情の違いがなければぶっちゃけ見分けがつかない。兄の方がこっそりと言ったことには、いちいち訂正を入れるのが面倒くさいので自分は口を結んでいるのだという話だ。大人である。
 先にも言ったように、ぶっちゃけ見分けがつかない。例の白黒コートでなかったりすると時々間違える。どうもクダリはそれが不満なようで、名前がうっかり間違えたりすると、暫く機嫌が悪くなる。街中でばったり会った時とか、すごく困る。
「おや……こんにちは、名前さま」
「……こんにちは」見上げる顔は無表情だ。「ええっと、ノボリ、さん」
 一瞬の沈黙。
「ひどい! 名前は僕のこと見分けつかないんだ! 恋人なのに! 僕恋人なのに!」
「やっぱりクダリかあ……ごめんって」
 往来でめそめそと泣き真似をするクダリは実に面倒くさい。どうしてこんな男が好きなんだろう。兄の方を好きになれば良かったかもしれない。顔同じだし。
 時々こうしてノボリの振りをして話し掛けてくるので始末に負えない。彼としては、ちゃんと自分だと見抜いて欲しいということなんだろうが、無理な話だ。結局、この時はクダリを宥めすかせるのに小一時間かかった。


 名前の家に赴いたクダリは、自分を出迎える名前を力一杯抱き締める。はあ可愛い。仕事の疲れが癒される。そしてそれを眺めるもう一人の名前。
「ひどい! クダリは私のこと見分けつかないのね! ――なーんて」
 もう一人の名前の出現にクダリは驚き、自分の腕の中の名前を見詰める。真っ赤な顔をしている名前は半泣きだ。可愛い。
 手を放せば、名前の姿が一瞬にして変わり、そしてそのまま家の奥から現れた名前の背後に隠れる。
 ゾロアークをボールの中に戻しながら、「自分の偽者だとしても、彼氏が他の誰かをハグしてるの見るのって、何だか妙な気分ね」と名前は笑った。

「名前、何か怒ってる?」
「まさか。私がクダリとノボリさんを間違えるのを怒るのはお門違いじゃないかと思うだけよ」
 やっぱり怒ってる、と呟くクダリに微笑み、そっとキスを落とす。
「私もなるべく間違えないようにするから、クダリもノボリさんの振りして近付くのやめてね。心配しなくても、私の恋人はあなただけよ。キスをするのもハグをするのもね」
 そう言って名前が再び笑ってみせると、クダリも申し訳なさそうにちょっとだけ笑った。



「まあ一回は一回よね。私もノボリさんをハグしてこようかな」
「僕が悪かったからお願いやめて」

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