なな

「ハーイ! 初めまして、アララギです! あなたが名前ね?」
 そう問い掛ければ男は頷く。カントー系の顔立ちをした青年だ。年の頃は自分と同じくらいだろうか。大方そのくらいだろうとアララギは見当をつけた。
 名前はあまり喋らなかった。ただ――彼のタブンネを見れば、彼が素晴らしいトレーナーだということはすぐに知れる。
「ベルから色々聞いているわ。暫くよろしくね」
 にっこり笑うと、釣られたように名前も微かに笑った。ベルは「もう、博士! 色々ってなんですかあ!」と顔を真っ赤にしたのだった。


 フキヨセシティで久しぶりに再会したベルは、やはりと言うべきか名前のことしか喋らなかった。チェレンからしてみれば、あんなヒモニートのどこが良いのか解らない。どうやら洞窟の中で偶然にもトウヤと会ったらしく、名前は彼を追い払うのに多大な苦労を要したらしい。無口な幼馴染みに、チェレンはそっとエールを送る。
「……知り合いみたいだった? Nと?」
 思わずそう聞き返すと、ベルは頷いた。
「それがねえ、あのNって人が名前さんの名前を呼んで、名前さんの方も知ってるみたいだったよ」
 ねえ、と彼女は傍らのムンナに問い掛ける。
 ムンナが頷いているのを見ながら、チェレンは内心で動揺する。しかし、いくらなんでもチェレンだって『それ』をベルに伝えたりしない。さっさと彼女が名前を諦めれば良いとは思っているが。彼の実力だって、『それ』のことだって、確かめてから判断するべきだ。

 チェレンは近頃名前に会っていない。あの雨の日が名前に会った最後だった。ライモンシティを離れてしまった為に会う機会が無いのだ。ベルは電気石の洞穴で別れた後も、ライブキャスターで連絡を取っているらしいが、チェレンは名前のアドレスを知らない。大体にして、あの人は家の中に引き籠っていることの方が多い。何故ならチェレンが家を訪ねた時、その内の八割が在宅だったからだ。
 折角、「次に会った時はバトル」という約束をしてくれたのに、チェレンがライモンシティを離れることを解っていてそんなことを言ったんじゃないか。そういう穿った見方をしてしまうくらいには、名前に対する心象は悪い。

「ねえベル、前にも聞いたことがあるかもしれないけど、どうして名前さんが好きなんだい?」
 チェレンが問い掛けると、ベルはほんの少しだけ顔を赤くした。
「名前さんはねえ――」
 二人のライブキャスターが同時に着信音を鳴らしたのは、まさにその時だった。


「いいか! 貴様らポケモントレーナーは、無暗矢鱈にポケモンを傷付けるだけの悪に過ぎないのだ! だから我々はポケモンをその苦痛から解放する! プラーズマー!」
 プラーズマー、と、独特な掛け声が輪唱される。彼らが集ったのはポケモンバトルのメッカ――ライモンシティの中心部だった。

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