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 先日のイアイアンのことを友人達に告げると、ああ、あの人真面目そうだもんねと返ってきた。お墨付きである。あの後、イアイアンは名前の自宅まで付き添ってくれて、親にまで頭を下げていた。何だろう、アトミック侍は一般市民を助けた時は自宅まで送れと教えているんだろうか。その子が怪我するのは毎日の事なんで、とほぼ他人のヒーローにばらした母親は絶対に許さない。
「そういえば、私も昨日怪人見たなあ」
「えっ」
 私が怪人に会うのはもう日課みたいなものだけど、友達が会うのは全然別問題じゃないか。大丈夫だったのかと問えば、もう倒される寸前だったんだけどねと彼女は笑った。
「それがさあ、家に帰る途中、商店街の方を通るんだけど、そこが騒がしいわけよ。で、行ってみたらテジナーマンと変なバケツみたいなのがやり合ってるわけ。最後しか見れなかったけど……私、怪人なんて生で見たの初めてだわ」
 “見れなかった”のは置いておいて。
「Y市って、結構、出現率低かったよね?」
 尋ねると、二人は顔を見合わせた。
「そりゃ名前、あんたの所と比べたらね」
「Z市は発生件数が桁外れだもん。比べりゃ、そりゃ少ないわよ。でも、年々上がってきてはいるのよ」
 だからヒーロー達には頑張ってもらわないとね、と、結局いつものヒーロー談義が始まった。というか、あんまりショックを受けていないように見えるのは気のせいだろうか。怪人について聞かせ過ぎたか?


 名前の家はZ市にある。Z市の東側は住民の居ないゴーストタウンが広がっていて、以前はそこに住んでいた。今は、その居住禁止区域に隣接する居住区の東端に住んでいる。何でも、土地が安かったのだとか何とか。そりゃ安いだろう。名前がわざわざ二時間も電車に揺られ、隣の市の高校に通っているのも、少しでも危険を下げる為だった。Y市は比較的に怪人が出にくい。しかし、どうやら最近はそうも言っていられないようだ。怪人はZ市だろうとY市だろうと関係なく出るし、名前は雪の日だろうと晴天だろうと転ぶ。
「何かすみません……」
「あ? 何か言ったかぁ嬢ちゃん?」
「いえ……」
 何に足をとられたわけでもないのに顔面からずっこけた名前は、偶然通り掛かった黄金ボールとバネヒゲに助けられた。やはり、まともじゃないのはS級だけで、それ以外はちょっと腕っぷしが強いだけの人間なのかもしれない。でなければ、怪人も倒せてしまう筈のA級ヒーローが、転んで歩けないだけの女子高生をわざわざ運んでくれるだろうか。バネヒゲはハンカチを貸してくれたし。黄金ボールの背で揺られながら、今週はあなたに投票しますからねと胸の内で呟いた。
 というかA級ヒーローが二人、こんな所で何をしているんだ? 気付かない内に、災害警報でも出ていたのだろうか。

 二人の会話を聞いていると、どうやら彼らは災害発生の原因を調べに来たらしい。どうやら東の外れの無人街には化物が住んでいるとの噂があるようだ。恐過ぎる。名前もその化物を知らないかと聞かれたが、確かに毎日怪人に会いはするがそれとは無関係だろうと思い、首を横に振っておいた。
「あ、うちこの辺です。わざわざありがとうございました」
「良いってことよ。どうせついでだったしな」
 もう転ぶんじゃねぇぞと黄金ボールが笑う。

「いいですかお嬢さん、先程も言った通り、この先のゴーストタウンには化物が居るとの噂です。できるだけ近付かないようになさい」バネヒゲがそう言い残し、二人は廃墟地帯へと歩いていった。バネヒゲは以前に会った時は妙な人だと思ったが、やっぱり優しい人なんだな。ただこのハンカチ、突然剣になったりしないだろうか。心配だ。


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