納得いかない!

 悪いんだけど、自分の里を裏切ったあなたを信用するほど、私落ちぶれちゃいないのよ。ごめんなさいねと言った大蛇丸様に、名前の笑顔が固まった。
 有事の際、彼に危害が及ばぬよう守るのは名前の役目だった。名前の一族は結界に精通しているし、名前はその中でもぴか一の腕前だった。それが、自分よりも年下の連中に地位を奪われるなんて。それを鬼童丸に言えば、「大蛇丸様の仰ることももっともぜよ」ときたもんだ。むかつく。
 ぱちりぱちりと将棋の駒を並べるこいつは、名前の言うことを聞いているのかいないのか。恐らく、聞き流しているというのが正しいのだろう。鬼童丸にとっては、名前が怒っていようと何をしていようと構わないのに違いない。いやに腹が立って、彼の邪魔をしてやることに決めた。鬼童丸の後ろから寄り掛かるように圧し掛かり、彼の頬をぐにぐにとつねっていると、「やえるでよ」という言葉が返ってきた。実に間抜けである。
 というか、結構弾力あるなオイ。
 面白くなって尚もつまんでいると、彼の六本の腕の内、空いていた二本がはっしと名前の腕を掴んだ。名前が鬼童丸の頬から手を離すと、そのままぐっと引っ張られ、彼の背に身を預ける形になる。どうも、よほど邪魔だったらしい。しかし鬼童丸は名前に構うことなく、そのまま将棋の世界へ戻っていった。名前は将棋など解らないし、彼がずっと盤に釘付けになっているのも腹が立った。
「あんたらみたいなのが大蛇丸様に気に入られてるなんて、ちょうむかつく」
「仕方ねえぜよ」
 ぱちり。桂馬が跳ねた。
 ぐいぐい圧し掛かってやると、「やめるぜよ」と煩わしげな声。もっとも、怒ってはいないようだが。
「大蛇丸様はいつでも好きな時にあんたらと居られるんでしょ? 私一人の方が絶対役立つじゃない。五人連れて歩くの、なんか間が抜けてる」
 ぱちり。飛車が牽制する。

 鬼童丸の肩越しに駒の動きを眺めていたが、せいぜいそれらの名前くらいしか解らない。名前は元から頭脳タイプじゃなかったし、彼が何を思ってこんな遊びに興じているのか理解できなかった。次にどの駒が動くのかと見ていた時、鬼童丸が「あんた」と口を開いた。
「さっきから言ってることが滅茶苦茶だ。大蛇丸様に嫉妬してるなら、さっさとそう言うぜよ」
「は」声が漏れた。「ハアア!?」

「ばっかじゃないの? 誰が誰に嫉妬してるって?」
 腕を引こうとしたが、男女の差か、それとも別の何かか、彼の拘束は解けなかった。
「あんたが大蛇丸様にぜよ。大方、オレが四六時中大蛇丸様と居るもんだから寂しがってるんだろ」鬼童丸は笑う。「構って欲しいってんなら、素直にそう言うぜよ」
「んなっ」
 そんな訳ないじゃない!という言葉はついに口を出なかった。鬼童丸が六本の腕で名前をぐいと引っ張り、そのまま抱き抱えたからだ。急に天地が逆転し、視界はにやにやと笑っている鬼童丸で埋め尽くされた。もう将棋はどうでも良くなったのか、体勢を変えた際にぶつかり、ずれてしまった駒には興味がないようだった。それとも、元からそれほど将棋に熱中していたわけではないのだろうか?
 名前は暴れたが、腕が三対もあるのでは勝ち目がない。まあそれでなくても男女差というものがあるから、振り解くのは至難の業かもしれないが。しかし名前は抵抗をやめなかった。彼の言葉は、実際的を射ていた。
「は、離しなさいよ!」
「嫌ぜよ。あんたがまた機嫌を損ねるのは解り切ってる」
 ふっと鼻から息を吐き出した。やれやれとでも言いたげな顔がむかつく。
「攻略法の解ってるゲームほど、つまらんもんはねえぜよ」
「だったら離してってば!」
 両手は尚も手首が捉えられているし、足は束ねて抱えられている。腰に添えられている手は軽々と名前の身を抱きながら、がっちりと押さえ付けてもいる。不意にぐいっと体が移動し、両頬を掴まれた。鬼童丸のキスは強引で、名前の息が絶え絶えになるまで続いた。
「おーおー、真っ赤になっちゃって」
「う、うるさい!」
 名前が叫ぶと、鬼童丸は愉快そうに笑った。
 結局のところ、私はからかわれた、のだろうか。

「安心するぜよ。オレは気に入ったゲームなら、プレイ済みでもそこそこやる方ぜよ」
「……そこそこですって!」
「言葉のあやぜよ」

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