あい、うぉんちゅー

 あんまり綺麗な顔で笑うものだから、その笑顔を自分だけのものにしたい、そう思ったのだ。

 洗脳ハートビームを一身に浴びた名前は、目をぱちくりと瞬かせ、メガミメガネを見た。洗脳にかかった様子ではない。もしも暗示が効いているならば、彼女はその真白い頬を薄紅色に染め上げ、メガミメガネに向けて愛を語り出すだろうからだ。メガミメガネは内心で自嘲した。ほら、やっぱり駄目だった。
 自分の能力が怪人相手に効くのかどうか、メガミメガネは知らない。しかし元より、洗脳ハートビームは同性には効果がないのだ。名前が男だったら良かったのかもしれない。いや、男だったとしたら、これほどまでに夢中になってはいなかっただろう。怪人であるにも関わらず、ごく綺麗な顔で笑う名前。そんな彼女を、メガミメガネは自分だけのものにしたくなった。彼女が男であるならば、それは容易い。同性であるからこそ、手の届くことのない彼女がよりいっとう美しく見えるのだ。
「ビーム、効かないねえ」そう言って、彼女はまた綺麗な顔で笑う。

 メガミメガネはぐっと唇を噛み締めた。ビームが効かなかったことが悔しいのではない。仲間である名前に、同性である名前に、怪人である名前に洗脳ハートビームを浴びせてしまったことにより、彼女が自分の物にならないことがはっきりしてしまったことが、何より悔しかった。こんなことなら、彼女にビームなど浴びせなければ良かった。
 名前はメガミメガネが自身のビームの威力を確かめたかっただけだ、そう思っているだろう。自分の言葉を信じ切っている彼女に、ひどく羞恥を覚える。
「それはそうよ」メガミメガネは言った。
「だってあなた、もう私に惚れてるんだもの」
 名前が今どんな表情をしているのか、メガミメガネには解らなかった。口から飛び出したその言葉。悔し紛れの出まかせだった。いくら子供のような純真さを忘れない名前でも、信じやしないだろう。しかし、名前は。
「……え? そうなの?」
 素っ頓狂な声でそう言った。
「そうよん。だから効かないの。だってこれ、女の子相手にも効くんだもの」
「そっかあ……」
 重ねた嘘を、彼女は信じているのだろうか。解らない。ただ、何物も信じる処女であるかのような、そんな気持ちにさせられるのが、堪らなく嫌だった。疑うことを知らない、相手の言葉を全て信じ込むような、そんな馬鹿な女であるかのような。

 名前が軽い足取りでメガミメガネの面前に現れて、思わず身震いした。彼女が何も言わなければ良い。そうすれば、なかったことにできる。ただの友達のままでいられる。しかし、名前は残酷にも口を開く。
「私、メガミメガネちゃんのこと好きだったんだねえ」

「……え、」
「知らなかったよう」名前がからからと笑う。「これからもよろしくね」
 メガミメガネには、彼女が何を言っているのか一瞬解らなかった。名前は、強がりを言った自分を辱めない為に話に乗ってくれたのだろうか。それとも、本当に、メガミメガネが言った嘘を信じたのだろうか。
 ――どっちでもいい。
 よろしくねとメガミメガネが言うと、やはり名前は綺麗な顔で笑った。

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