あなたの照れる顔が好き
※フラッシュとソニックが同郷設定
どうも最近、周囲の人間関係がおかしい。何でも、フラッシュの奴が名前に惚れているらしいとか。
別に、色恋など好きにしたらいいと思う。もっとも、忍者を志す者としては聊か慎重に欠けるかもしれないが。女に金、それに酒は、忍者の精神を乱す大元なのだ。まあ、そんなことはソニックにとってはどうでも良い。むしろもっとやれと思う。自分以上に早い忍者は必要ないのだ。
問題点はフラッシュにあった。先にも述べたように、別にソニックはフラッシュがどれだけ名前に惚れ込もうとどうだって良いと考えている。名前に惚れているわけでもなし。それどころか彼女は気の良い奴だし、顔もそこそこ整っているから、フラッシュと共に居るのは絵になると個人的には思う。――フラッシュが名前を好き過ぎて、鍛錬に支障が生じている。
「おっ、フラッシュ! やーっと見付けた。ソニックと一緒だったんだね」
「あ……あ、ああ」
どもり過ぎだ馬鹿が。
ソニックには劣るが超スピードで姿を現した名前は、フラッシュと、それからソニックに向けて、次の修業の日程を伝えた。口頭で伝えられるそれを、果たしてフラッシュが聞いているのかどうか。また後で一から説明してやる羽目になりそうだ、とソニックは内心で嘆息した。
初心というか何というか。どうもフラッシュはまともに名前の顔を見られないらしい。彼が最近前髪を伸ばし始めたのもその為だ。実力が同期の誰よりも頭一つ分飛び抜けているフラッシュは(もちろん、俺には及ばないが)、恋愛に関しては人一倍奥手らしい。同期であり一緒に行動させられることの多いソニックからしてみれば、さっさと告白なりなんなりして、引っ付くなり砕けるなりして欲しいものだ。見ているこっちが苛々する。顔は良いのだから、名前だってフラッシュに好意を寄せられるのであれば嬉しい筈だ。
名前はというと、こっちはこっちで面倒になことになっている。どうも、フラッシュの気持ちに少しも気が付いていないようなのだ。色恋に疎いくノ一なんて居ても良いものだろうか。恐らく名前は、フラッシュのことを同期の一人としてしか見ていないのだろう。もしくは、そんな同期に恋するとは考えも及ばないのかもしれない。真面目な性格が仇となったか、単にフラッシュが彼女に対してだけは平静を装って――はいないか。
フラッシュが奥手過ぎるのが悪いし、名前が鈍過ぎるのも悪い。
そういえばさあ、と名前が口を開いた。
「フラッシュ前髪伸びたよね。邪魔じゃないの?」
「え? い、いや……」
そんな事は、とごにょごにょ呟く。名前、もっと言ってやれ。
歯切れの悪いフラッシュに、名前は不思議そうな顔をしている。思えばフラッシュも不憫な奴だ。名前がもう少し自身に関わる感情に敏ければ良かったろうに。多分、言葉で言わないと通じないんじゃないか。
ソニックが半ば失笑しながら二人の様子を眺めていると、面白いことが起こった。瞬く間にフラッシュの目の前に移動した名前が、彼の前髪を掻き上げたのだ。それはちょうど、母親が子の額に手を当て、熱を測っているかのような具合で。
「せっかく綺麗な顔してるのに、勿体ないよ」
途端に赤く染まるフラッシュの顔。初心な奴め。
「あれ?」名前が言った。「もしかして熱――」
があるんじゃない、と名前は問い掛けたかったのだと思う。彼女の言葉が中途で終わったのは、フラッシュが恥ずかしさに耐え切れずその場から消えたからだ。
「行っちゃった……」
「お前も罪な女だな」
「何か言った?」
「いや?」
フラッシュ、熱あったみたいだけど大丈夫かな、と名前が呟く。本当にフラッシュの気持ちに気が付いていないのか。心底哀れに思えてきた。しかし、「照れてるみたいで可愛かったな」という言葉。存外、脈がないわけでもないんじゃないか。
「何なら追って確かめてやればどうだ」
「……うん、そうするね」
ありがとソニック、と言い終わるが早いが名前は一瞬にして姿を消した。今頃はフラッシュを見つけ出しているんじゃないだろうか。これで少しでも進展があれば儲けものなのだが。
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