よん

 タブンネを連れている姿しか知らないチェレンは、トウコとトウヤ以外の人間から、名前の実力を聞くことがあるとは思わなかった。
「名前さんは超強いですよ」
 そう力説するのは、鉄道員のカズマサだった。

 チェレンは一度、バトルサブウェイに足を向けていた。トウコの話を全て信じるなら、名前はサブウェイマスターに一度勝利している筈だった。彼らが肯定するなら、名前は実は強いトレーナーなのだと認めてやっても良い。
 しかしながら、サブウェイマスターのノボリもクダリも、名前のことを覚えていなかった。
「僕達、毎日すっごくバトルする。全員のこと覚えてない」
「ただ」黒い車掌が呟く。「トウコ様に勝ったことは、数える程しかございませんね」

「あの人、よくビッグスタジアムに来るんですよ。そうしてスタジアムに居る全員から、有り金を奪っていくんです。あ、もちろんバトルでですよ」
 ふと足を運んだビッグスタジアムで、バトルの後、「タブンネを連れたトレーナーのことを知らないか」と尋ねてみたところ、彼は「知っている」と頷いた。予想外だった。ついでに、カズマサの他にも何人かに聞いてみたが、皆一様に知っていると言った。しかも、誰も彼もが苦虫を噛み潰したような顔をして。
「……それ、本当に名前さんですか?」
「そうですよ。タブンネを連れた、ちょっと背の低い人でしょう? カントーっぽい顔の」
 チェレンは首肯する。バトルサブウェイの場所が解らないと言うカズマサを、無事に職場に送り届けてからも、チェレンの混乱は続いていた。
 もしかして、本当に名前は強いトレーナーなのだろうか。あんないい加減な人間が? 

 いつの間にか、チェレンの中で目的がすり替わっていた。
 もしも――もしも、仮にあの名前がトウコやトウヤ、カズマサを始めとしたビッグスタジアムのトレーナー達が口にしていた通り、本当に強いトレーナーならば、バトルしてみたい。チェレンのトレーナーとしての欲求が、真に彼とのバトルを求めてやまなかった。

[ 461/832 ]

[*prev] [next#]
[モドル]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -