18

 いつもの通り、会ったヒーローについてを報告する。昨日話していた通り偶然にもゾンビマンに会ったと言えば、友人達は羨ましそうにするやら呆れたようにするやら忙しかった。というかお前ら人の話聞いてた? いくらイケメンでも、全裸で大腸飛び出してるような状態だよ?
「もうさ、名前、S級に全員会ったんじゃない?」友達はからから笑った。
「良いなあほんと。ま、私達はあんたから話聞けるだけで良いんだけどねー」
「んー……」名前はちょっと上を向き、考えた。今日の卵焼きには、砂糖が入っていないらしく、甘くない。「S級ヒーローって何人だっけ?」
「十六人」
 二人の声がはもった。
「流石に全員は会ってないよ。ブラストの顔知らないし」
「そりゃ、ブラストは顔写真公開してないもん」
「そうだっけ?」
「そうよ」
 言われてみれば、そうだったかもしれない。ブラストは名前だけが明かされているヒーローなのだ。前に、ブラストが実在するのかどうかという特番を見た事もある。
「それから、プリズナーにも会った事ないなあ」
「まあ、プリズナーはねえ……」
「いくら名前でもねえ……」 
 どうやらS級十六位のぷりぷりプリズナーは、何でもいつも刑務所に居るらしい。ちょっと訳が分からなかった。写真を見る限りではマッチョの男だった気がするのだが、それでは何か、あの白黒の服は単なる縞模様ではなく、囚人服だったのか。


 前日の件がある為、昼休みの会話が前振りになったかと思ったが、名前はその日、ブラストにも、プリズナーにも会わなかった。代わりに遭遇したのが、S級三位のシルバーファングだった。見た目はただのおじいさんなのだが、その実五百人以上居るヒーローの中でも屈指の実力者だというのだから、この世は不思議だ。そして名前は、シルバーファングに以前にも会ったことがある。会ったというか、命を助けられた事がある。まあ、シルバーファングが覚えているかどうかは解らないが。
 と思ったら、どうやらシルバーファングの方も、名前を覚えていたらしい。「なんじゃ、またお前か」と口に出し、呆れたように眉を下げた。このジジイ……。

 ぶわっと土埃が舞い、シルバーファングの傍らに居た一つ目の怪人が地に伏した。相変わらずの早業だ。確か何とかという武術の流派で、彼はその師範代ではなかったか。生憎とそこまでの興味はないのだが、すぱんすぱんと攻撃が受け流されるその様は、見ていて心地良かった。ただ、それとこれとは話が別だ。
「丁度いいわい。ほれ、着いてこい」
「えええ……嫌ですよ……」
 お一人様二パックまでなんじゃ、とシルバーファング。どうやら買い物に付き合わせるつもりらしい。実のところ、名前は以前にもスーパーむなげやへ同行させられている。市民の義務じゃろとか何とか適当なことを言って。もちろん名前は命を助けられた身分であったし、今だってそれには変わりがないのだが、この爺さんの態度がムカつく。
「なんじゃ、最近の若いもんは。助けてもらったらお礼に荷物持ちに付き合うのが常識じゃろうが」
「聞いたことないですよ、そんな常識」名前が呟いた。「というか私、あの、一応受験生なんですけど」
「つべこべ言わずについてこんか」
「人の話聞いて下さいよ」

 S級三位は帰り道、鯛焼きを買ってくれた。そして何だろう、この釈然としない感じと、デジャヴ感は。

[ 499/832 ]

[*prev] [next#]
[モドル]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -