さん

 チェレンは名前の実力を確かめることこそ急務としていた。
 彼とバトルをし、実力を知ることさえできれば、そんな実力じゃいざという時に対処できずベルを危険な目に遭わせることになるだとか、あんなバトルも弱いような何の取り柄もない奴やめとけだとか、そういう風に理論的に二人を離すことができると思ったのだ。
 チェレンの頭の中には、自分が負けるという可能性はこれっぽっちも存在していなかった。チェレンにとって、名前という男は既に、ただのヒモになりかけのニートだったのだ。そんな男に負けるわけがない。

 一週間に一度程度、ライモンシティに足を運んでいた。名前が間借りしている、ライモンシティらしからぬぼろアパートだ。ついでに何故チェレンが名前の住居を知っているかというと、まあベルに聞いたわけだが、どうやらベルは住所を教えて欲しいと根気強く頼んだらしい。時々訪ねているようで、チェレンとしては何かあったらとハラハラしている。
 この日もチェレンは名前の元へと向かっていた。今日こそ彼とバトルをし、そして負かすつもりだった。
 名前の部屋の前に見慣れた二人が座り込んでいて、チェレンは足を止めた。

「あらチェレン、奇遇ね」
「……」
 トウコとトウヤだった。ベルと同じく幼馴染みで、二卵性双生児の二人だ。
「二人とも、こんな所で何をやってるんだ?」
「決まってるじゃない。名前さんを待ち伏せしてるのよ。ねっ、トウヤ」
「……」
 いつも通りよく喋るトウコと、やはりいつも通り無言のトウヤ。

 実は、チェレンやベルが名前と知り合う切っ掛けとなったのは、この双子が原因だった。双子というか、大本はトウコだった。
 以前トウコがバトルサブウェイに乗ろうとしていた時、偶々近くに居た名前を引っ張り込んでマルチトレインに乗ったそうだ。そこでトウコは名前の強さに惚れ込んだのだという。何でも、彼のおかげであのサブウェイマスターにも勝つことができたのだとかどうとか。
 ベルがどういう経緯で名前と知り合ったのか詳しくは知らないが、チェレンが名前と知り合うことになったのは、この双子が名前に付き纏って離れないところに偶然出くわしたからだった。二人が迷惑を掛けているようにしか見えなかったので止めたのだ。今となっては良いぞもっとやれと思う。
「ねえ二人とも、名前さんって本当に強いのかい? 僕にはとてもそんな風に思えない」
「あら」トウコが笑う。「私達を信じないの?」
「名前さんは強いわよ。強いっていうか……とりあえず、私はあんな風にバトルする人に初めて会ったわ」
 それに、トウヤがフルバトルで負けたのよ、とトウコは付け足した。トウヤはやはり無言だったが、不承不承という調子で頷く。

 二人の言う事を信じないわけではなかったが、どうにも名前がバトルしているところが想像できない。
 何にせよ、今日は名前と会うことはできないだろうとチェレンは思う。二人が待ち構えていることに気が付いたら、絶対に帰ってこないだろう。
 何故なら、名前はこの双子、特にトウヤの方を大の苦手としているからだ。何でも、彼が昔の知り合いによく似ているのだとか。少しも喋らないトウヤがどう似ているのか知らないが、無口な知り合いでも居たのだろう。
 やはりと言うべきか、名前は夜になっても戻らなかった。

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