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 病院で見てもらったところ、単なる捻挫ではなくどうやら骨に罅が入っていたらしい。しかし二週間ほどで完治するということで、一安心だ。名前がしている仰々しいサポーターを見て、友人二人はまたかと溜息を吐いた。あんた、ほんとに怪我の神様に好かれてるねと。

 今日も今日とて、彼女達はイケメンヒーロー談義に夢中だ。しかしいつもと違うのは、そこに名前が参加していることである。
「だから、絶対無免さんだって!」と、名前。
 友人達は顔を見合わせた。
「そりゃ、無免ライダーは素敵だと思うけど、あの人顔見えないじゃない」
「絶対フツメンよ、フツメン」
「ひっどい。二人ともひっどい」
 名前が少々落ち込むと、二人はおかしそうに笑った。二人が言うには、名前の好みはタンクトップタイガーのような無骨なタイプだと思っていたらしい。確かに名前はいつも、人気ランキングはタンクトップタイガーに投票している。しかしそれは彼と知り合いだからだ。
「まあ無免ライダーはかっこいいけど、それは市民目線ってことで。イケメンではないわね」
「やっぱりイケメンはアマイマスク様でしょうよ」
 やはり二人の一押しはイケメン仮面らしい。
「私、元々アマイマスクみたいな整い過ぎたイケメンって好きじゃないもん。金髪も好きじゃないし……やっぱり、断然無免さんだってば!」
「ふうん……じゃ、ゾンビマンは?」
「イケメンだけど、あんた好みの整い過ぎないイケメンよ」
 ぐいっと携帯を押し付けられた。そこに映っているのは、確かに整い過ぎないイケメンだった。というか、ゾンビマンってこんな顔してたっけ? ヒーローを格好良いか格好良くないかで見たことがなかったので、ゾンビマンがどストライクのイケメンだということに、名前はたった今気付いた。というか友よ、ヒーロー協会の顔写真を待ち受けにしてるのか。そしてイケメン仮面はどうした。
 黙り込んだ名前を見て、友人達はにやにやと笑い出した。
「……人は、中身!」名前の出した結論だ。


 じゃ、実際会ってみたら良いじゃない、あんたならどうせすぐに会えるでしょ、とは友人達の言だ。他人事だと思って好き勝手言って。名前はちょっとばかり人より不幸な出来事が多いだけで、好きな時に好きなヒーローと出会えるわけではない。しかし、その体質が影響したのか、名前はその日、S級八位のゾンビマンに巡り合うことができた。
 ゾンビマンはどうやら怪人と戦っていたらしく、辺りには肉塊と化した怪人が落ちていた。ゾンビマンはと言えば血みどろで、それどころか右腕がもげ、腹には風穴が空き、首は取れ掛かっていた。下半身はどうやら切断されたらしく、五メートルほど離れた場所に落ちている。極め付けに、彼はほぼ全裸だ。なんて光景だ。またトラウマが増えた。
 そりゃ、人は中身と言ったが、はらわたとか、断じてそういう意味じゃない。
 ゾンビマンはぼんやりと煙草をふかしていたが、名前の存在に気付くと目を見開いた。

「えーと……これで大丈夫なんですか?」
「ああ。すまねえな、恐がらせちまって」
「いえ……」
 慣れてるんで、と、名前はそう言おうとしたが、流石に他人の下半身を運んだことはない。あまつさえそれを元の位置に添えるように置いたことなど。黙っている名前を見て、放っておいたら引っ付くからと、そう言ってゾンビマンは笑ってみせた。普段であれば、彼が自分を安心させる為に微笑んだのだと解るだろう。しかし今の名前には、まともな判断力など残っていなかった。もう二度と、他人の半身など運びたくない。
 しかし、いくら見た目が色んな意味で十八禁であろうと、彼を全裸のまま放っておくのは流石に良心が痛む。名前はスカートの下に履いていたジャージを渡すと、その場を後にした。何もないよりはマシだろう。

 後日、名前は友達に断言した。無い。ゾンビマンだけは無い。

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