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 ドッドッドッドッドッと、隣に立つ男から軽快なリズム音が聞こえてくる。
 名前が見上げると、その男も名前を見た。金髪オールバック、険しい顔付き、大柄な体躯、そして左目に走る三本の細長い傷跡。
「キングさん、ですよね」
「……ああ……」静かな声だ。
 名前は決して友人達のようにミーハーではないが、「地上最強の男」と呼ばれるS級ヒーローがすぐ傍らに立っているという事実を前に、流石に胸が震えた。彼は災害レベル“鬼”だろう怪人を前にしても、少しも動揺した素振りを見せない。
 その男、キングは、つい先日S級ヒーローになったばかりの男だった。それを名前が知っているのは、もちろんヒーロー通の友達のおかげだ。周りの一般人が彼の姿に気付いていないのは、知名度がまだ低いからだろう。しかし名前が声を掛けたことによって、少しずつだがざわめきが広がっている。
 自分の不幸体質は今に始まったことではないが、今日はツイている。だって、こんなに早くS級ヒーローが現場に駆け付けたのだから。いや、居合わせたのか。ますますラッキーだ。キングが実力が如何ほどのものか名前は知らなかったが、ヒーロー協会がS級ヒーローに認定したのだから、化け物染みて強いに決まっている。ヒーローになったと同時に「キング」というヒーローネームが与えられているのもその考えを裏付けているようだ。

 キングが居るなら、きっと心配いらない。
 名前が一人頷いた。そしてふと気付く。キング居ねえ。
 先程まですぐ隣に立っていた筈なのに、居なくなっている。どこへ行ったのだろうとキョロキョロしていると、怪人の攻撃が此方に飛んできたようだった。それに気付いたのは、名前がマッチョな男に抱えられ、大丈夫かと声を掛けられた時だ。S級ヒーロー、タンクトップマスターである。
 名前がはいと頷くと、タンクトップマスターも頷き返し、抱え上げていた名前をそっと降ろしてくれた。あとほんの少しでも彼が助けに入るのが遅れていたら、名前は怪人の放つ光の弾に焼かれていたかもしれない。
 ありがとうございましたと頭を下げると、「君は……」と呟かれた気がした。ちょっと待て。何で私、会ったことのない筈のS級に顔知られてんの? タンクトッパー? タンクトッパーだからなの?
「君は早く避難しなさい」
「はい、でも、あの……」
「うん?」
 名前が指を差すと、タンクトップマスターがその指の先を見た。巨大化した怪人が、何者かの攻撃を受けたのだろう、ばらばらと肉塊となって落ちていくところだった。
「さっき、キングさんが居たので、だから……」
「キングか」タンクトップマスターは名前が言いたいことを察したらしい。
「とんでもない奴が出て来たな」

 後日、キングのランクは最下位から一気に六位にまで上がっていた。キングさんマジぱねえっす。

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