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 辛く苦しいテスト期間が漸く終わりを迎え、輝かしい夏休みが始まった。
 テストの点は、全体的に見れば悪くなかった。むしろ、前回よりも少しだけ上がっている。うっかり遅刻しそうになった時のテストも、平均点を僅かに上回っていた。あの時は相当焦ったので、正しい答えを選べているか不安だったのだが。名前を書き忘れたり、解答欄を間違えたりという不幸も起きなかったようだ(いや、確かに書き忘れたりズレて答えていたこともあったが、ちゃんと見直しの時に気付けていた)。怪人に会う確率が上昇しているのと同じくらい、テストの出来も上がっていれば良いのに。そう言うと、友人達はけらけら笑った。
 そういえば、あのソニックだか何だか名乗った人は、やはりヒーローではないらしい。彼女達のヒーロー情報に間違いはない。彼女達が知らないのだから、ヒーローである筈がないのだ。同じくらいの年に見えたが、もしかしてどこぞの学生なのだろうか。長期の休みの時だけ、活動するヒーロー。どこかの漫画で出てきそうだ。早めに夏休みが始まっている学校だってあるのだから、そうではないと断定することはできないだろう。

 名前達の夏休みは、一週間だけだった。残りはその殆どが学校での補習授業に充てられるのだ。希望者のみの課外授業だが、進学を目標としている生徒はその大部分が選択しているし、名前のその中の一人だった。来週には、再び学校へ通う汗だくの日々が始まるのだ。束の間の夏休み。この一週間は、膨大な量の宿題をこなす為に存在していると言っても過言ではない。世の中狂っている。
 ただ、休みは休みだ。友達も、旅行へ行ったり趣味に当てたりと忙しい。名前も四日ほど机に噛り付き、課されている宿題の半数を片付けると、残りの日数は目いっぱい遊ぶことに決めた。


 この日、名前は遠くA市まで来ていた。好きなブランドのバッグが、A市の本店限定で発売されているからだ。基本的に物欲の少ない名前だったが、今回の限定商品はデザインが可愛らしく、どうしても欲しかった。もしかすると、家で缶詰めになっていたことへの反動もあるのかもしれない。ここ数ヶ月、受験勉強ばかりで外出らしい外出をしていなかったし。
 ただ、名前には解っていた。絶対、怪人に遭う。
 毎日のように遭遇するのは確かに最近になってからだ。しかし、怪人と遭遇すること自体は今までにだってあった。何度も何度も。名前は人生の節目節目で怪人と遭遇していた。習っていたピアノのコンクールに行けば怪人に遭い、家族で旅行に出掛ければ怪人に遭い、インフルエンザにかかり病院へ行ったと思えば怪人に遭った。頻度は今の比ではない。しかし、名前の中で「外出」と「怪人と遭遇」は、イコールで結ばれていると言っても良い。

 予想通り、名前は怪人に遭遇した。
 遠目からだったが、怪人に間違いない。全身真っ黒で、頭から触角を生やしている(しかも二本)人間なんて居る筈がない。名前は大きな溜息をついた。怪人は宙に浮かべるらしく、ぶんぶんと飛び回りながら、両手から何やら光の弾を出して街を破壊している。自分一人の時に怪人と会うことが多いため、怪人が此方に来る気はしなかった。しかし油断はできない。いつだったかには、遠距離攻撃が飛んできたじゃないか。しかも後ろから。あの光の弾が此方に向けていつ飛ばされるかなんて解ったもんじゃない。
 ふ、と名前は息を吐き出した。
 どうせ考えても無駄だ。大怪我を負うことはあるかもしれないが、きっと死なないし。周りに居る人々のように青い顔をしながら走り回っていないのも、名前の怪人とのエンカウント率が高過ぎて、危機感が薄まっているからだ。油断は禁物だ。禁物なのだが、
「……あの」
 名前は以前貰った救難信号発信装置のボタンを押してから、隣に立っていた男に声を掛けた。王者たる風格を放っているその男に。

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