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 S級5位のヒーロー、童帝に貰った小さなブザーのようなものは、効果覿面だった。次の日怪人に遭遇した際に、早速試してみたのだ。別に童帝を疑っていたわけではないが、いくらS級ヒーローでも小学生の言葉を鵜呑みにする気にはなれなかった。どこからともなく現れた駆動騎士は名前を抱え、何十メートルも離れた場所に移動すると、すぐさま怪人を打ち倒したのだった。
 礼を言う間もなかったと告げると、友人達は眉を寄せた。その目は訝しげだ。同時に同情心も垣間見えるが。
「名前はあれなの、もしかしてS級ホイホイか何かなの」
「失敬な!」
「そうよ。どっちかというと怪人ホイホイでしょ」
「もっと失礼!」


 友人達の前では憤慨してみせたが、怪人ホイホイという綽名は的を射ている。この日の帰り道、またも名前は怪人に遭遇した。先日童帝に叱られたばかりだが、こうも毎日怪人に会っていれば危機感も薄れるというものだ。とはいえ、油断は禁物だが。
「ケケケーッ! 俺は産業廃棄物から生まれた産廃男! テメェら人間を全て廃棄してやる!」
 最近解ってきたのだが、どうやら一口に怪人と言っても、いくつかの種類があるらしい。元は人間だったのが怪人になったもの、動物や無機物が意思を持ったもの。この二種類は比較的簡単に見分けがつく――無論、怪人本人に確かめたわけではないから、名前の考えが正しいのかは解らない。ただ、時々どちらともつかないような怪人が居るから、恐らくもっと別の分類の怪人も居るのだろう――。今名前の前に立っているのは後者に当て嵌まる。というか、自分で産業廃棄物って言ってたし。
 怪人の体は鉄パイプの骨組みに、得体の知れない毒々しい色の液体が関節部となって構成されていた。やたらとペラペラ喋っていたり、何よりもその雰囲気から、災害レベルはせいぜい“虎”だろう。名前が怪人に慣れ過ぎたのか知らないが、あまり怖くない。むしろ、昨日会った駆動騎士の方がよほど怖かったくらいだ。彼は一言も口を利かなかったし、ロボットなのかサイボーグなのかも解らなかった。抱き抱えられている間、威圧感というものをありありと感じていた。しかし、この怪人はそうではない。
 怪人の廃材だらけの体付きを見るに、素早く動けるようには思えなかった。もしかして、全力で走れば逃げられるのではないだろうか?

 名前は怪人が喋っているのを良い事に、じりじりと後退し始めた。

「テメェ女ァ! 何逃げようとしてやがる!」
 怪人の腕がぐんっとしなった。というか、速い。想像以上のスピードに、名前は思わず目を瞑る。頭、頭だけは守らなくては。
 ぐしゃり。
 グロテスクな音がした割に、痛みは襲ってこなかった。痛覚が馬鹿になってしまったのかもしれない。恐る恐る、瞼をこじ開ける。視界に広がっていたのはゴミの塊のような怪人ではなく、頬骨の辺りにフェイスペイントを施した、細身の男の姿だった。呆れた目をしている。
「馬鹿か貴様は」男が言った。
「あ……怪人、は……?」
「怪人? あのゴミの塊のことか」
 男がちらっと背後を見遣る。名前もそれにつられて、男の視線の先を見た。ゴミの怪人だったものが、ゴミそのものになっている。何が起きたのだろう? 一つ解るのは、名前を間一髪のところで助けてくれたのがこの男だろうということだ。それから、チンッっと金属音。見れば男が肩越しに刀を収めていた。

 ありがとうございましたと頭を下げると、男は奇怪な物を見るかのように目を細めて名前を見た。音速のソニックという名前らしい。ヒーローをしているのかと問えば、一緒にするなと怒られた。ヒーローをせずに人助けをしているなんて、奇特な人も居たものだ。口を開けばランクランクばかりのヒーローよりずっと良いかもしれない。ただ、その二重表現になっている名前はどうなのだろうか。

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