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 名前のその特異な体質、つまりやたらと不幸を呼び寄せるという体質は、同じように怪人をも呼び寄せた。数年前から段々とその発生率は高くなっているのだが、名前の遭遇率は異常なほどだ。それに伴い、その怪人を倒す存在であるヒーローとの遭遇率も異常に高い。追っ掛けでもしていれば別だろうが、名前ほどヒーローと接触する一般人もそうは居ないだろう。

 ところで、名前と特に仲の良い友人の二人は、追っ掛けこそしていないものの、ヒーローが大好きだ。四六時中ヒーローについて話し合い、誰が一番格好良いかを談義している。二人の一番人気はイケメン仮面アマイマスクだ。毎日のように、人気ランキングに票を入れているとかいないとか。
 その二人はもちろん名前が会ったヒーローのことを知りたがった。名前も別に、尋ねられて悪い気はしない。ヒーローにそれほど好意を抱いていない名前にとって、彼女達と共通の話題ができるのは嬉しい。怪人の出現率が上がっていることもあってか、「昨日会ったヒーロー」の報告会は、いつしか日常と化していた。
 この日は「昨日」ではなく、「今日」だったが。
 昼休み、今日は朝方に閃光のフラッシュに助けられたと言うと、二人はあからさまに羨ましそうな顔をした。
「ほんと名前って……」
「この間はクロビカリに会ったって言ってなかった?」
「ヒーローどころか、S級とも会い過ぎじゃない?」
「もしかして、S級に会うコツでもあるの?」
「ないよ」名前が言った。それから、「そんなに会いたいなら、ずっと私と居たら良いじゃない」と付け加える。
「嫌よ」
 二人とも即答だ。
「イケメンヒーローには会いたいけど、死にたくはないもん」
「それに、今はテスト期間じゃない。そんなことしてる暇はないわよ」
 名前が「でも会いたいんでしょ」と言えば、二人とも頬を膨らませた。それからは、閃光のフラッシュがいかにイケメンで格好良いヒーローかについて二人は話し始めた。二人の異常な盛り上がり方から見て、自分が俗に言うお姫様抱っこでフラッシュに抱えられて登校したことは、話さなくて正解だったと解る。そんな事を言えば、いくら二人でも腹を立てるかもしれない。名前としては、この体質を代わって欲しいくらいだなのだが。


 ヒーローと遭遇すると言うが、別に色々なヒーローに次々と会うわけじゃない。中には、何度も顔を合わせたことのあるヒーローも居るのだ。今名前を背負って歩いてくれているヒーロー、タンクトップタイガーは、何度か会ったことのある内の一人だった。夏も近付いてきて暑いのは解るが、人の通る場所にまで水を撒くのはやめて欲しい。切実に。
 見事にずるりと滑ってこけた名前は、高校生にもなって膝小僧を思い切り擦り剥いていた。思いの外深く切ってしまったらしく、後から後から血が噴き出してくる。たまたま通り掛かったタンクトップタイガーは思い切り顔を顰め、歩けない名前を背負って近くの公園に足を向けた。

「お前、少しは気を付けて歩けよ。鈍くさいんだから」
「違います。私の体質がいけないんです」
「体質だあ? どう考えてもお前の運動神経の無さが原因だろ」
 傷口を水で洗い流した後、タンクトップタイガーは簡単な治療をしてくれた。凄く手際が良かった。どうして絆創膏など持ち歩いているのかと聞けば、お前が会う度に怪我をしているからだと睨まれた。実に申し訳ない。
 タンクトップタイガーと、その兄のタンクトップブラックホールには、名前はよく遭遇した。もしかすると、家が近くなのかもしれない。会えば口を利くくらいには仲が良いのだと思う。まあ、彼らからしてみればファンの一人として数えられているのかもしれないが。なお、タンクトッパーだとかいう連中には何人か会ったことがあるが、S級のタンクトップマスターには今のところ遭遇していない。
「ありがとうございました」
「おお」
 立ち上がってみると、鈍く痛みはするが歩けないほどではない。送って行ってやろうかと言うタンクトップタイガーの申し出を丁重に断り、名前は彼と別れた。人気ランキング、俺に投票しろよと笑うタイガーに生返事を返しながら、やはりランクが低いと変人度も低いのだなと、名前はぼんやり考えていた。

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