ヒーローはランクが上がるに従い、変人度も上がるに違いない。そう友人達に言ってみた名前だったが、二人ともやはり笑うだけだった。
「名前が言ってるのはS級ヒーローのことでしょ? そりゃ、災害レベル“鬼”を一人で倒しちゃうような人達だもん、常識で当て嵌めて考える方が間違ってるわよ」
「そうだけど、そうじゃないって言うかあ……」
 ごにょごにょと口籠ると、友人達は顔を見合わせた。
「いい、ヒーローが居ないと私達、すっごく困ったことになるんだからね」
「特に名前はお世話になってるでしょ、人一倍」


 滅多なこと言うもんじゃないわよ、と指を立てた友人は、見たことがあるのだろうか。大型トラックが宙を舞うところを。映画でもなければ、ゲームでもない、ましてや夢の中でもない、そんな場所で。
 人間の目とは不思議なもので、いかに有り得ないものであっても、他のあらゆる事象と同じように、その全てを脳へと伝達する。名前も全て見ていた。ぐらぐらと揺れたタイヤが此方に行き先を定めたこと。トラックの運転手がその先の名前を見付けて、絶望したような表情になったこと。さっと割って入った男が自分の何十倍もの重量のトラックを防ぎ止め、放り投げてみせたこと。それが軽々と飛んだこと。車体が二度三度と飛び跳ね、やがて横ざまに倒れ込んだこと。
 余所見運転で交差点に突っ込んできた乗用車は、今は急停止している。急ブレーキが効かず、脇に逸れて止まろうとしていたトラックは、投げ飛ばされて反対側の車線で横転していた。どうやら運転手は無事らしい。例の如く轢かれそうになっていた名前は、心臓をばくばく言わせながら事の顛末を見ていた。いくら悪運が強く、体が丈夫な名前でも、トラックに潰されてはひとたまりもない。対向車側は、どれも上手く停車できたようだった。此方も向こうも長い行列が出来ていたが、後発的な事故もない。

 何百キロもの大型貨物自動車を、まるで野球ボールを放るかのように投げ飛ばし、名前が煎餅のようにぺしゃんこになるのを防いだのは、たった一人の男だった。そんな光景を目の当たりにしても、友人達は果たしてヒーローはまともだなどと言えるだろうか。超合金クロビカリは、轢かれそうになっていた名前が無事なことを確認すると、事態の引き金になったドライバーの方へ歩いていった。
 後から調べたが、大型トラックの重量は軽い物でも五トンはあるらしい。それも積荷が空っぽの状態で、だ。百キロとか二百キロどころの騒ぎではない。やっぱりヒーロー、特にS級ヒーローはまともじゃないなと、名前は自分の見解の正しさを再確認した。
 後日クロビカリのことを告げれば、友達はさんざん笑った挙句、「じゃああんたの言うまともってどんななのよ」と呆れたような顔をした。

[ 489/832 ]

[*prev] [next#]
[モドル]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -