名前が思うに、ヒーローというのは大概まともじゃない。そして、ランクが上がるのに比例して、その変人度も上がっていくのだと思う。もっとも、この考えはあまり人に話したことがない。賛同が得られないのは解り切っているし、友達の誰も彼も、テレビや新聞で知っているだけで、間近でヒーローを何人も見ている者の方が少ないからだ。
 言っちゃなんだが、ランクが下位に位置しているヒーローの方が、人間としてランクが上なんじゃないか。
 例えば、最近で言うとオールバックマンが格好良かった。引ったくりを懲らしめてくれたのだ。おかげで名前は買ったばかりの定期券を盗られなくて済んだ。彼はC級だったと思うのだが、間に合ってよかったぜと笑うその顔は、とても格好良かった。まさにヒーローだ。自分でも報告したかもしれないが、名前もヒーロー協会へオールバックマンが引ったくりを捕まえたことを知らせておいた。
 オールバックマンは、名前からボストンバッグを奪った中年男性を叩きのめすこともなければ、街を破壊することもなかった。
 それに反してS級ランカーの連中はどうだろう。番犬マンは血の雨を名前に浴びせたし、アトミック侍と金属バットは人の話を聞かなかったし、戦慄のタツマキには説教という名の罵倒をされた。他にも、この間はメタルナイトのミサイル攻撃のおかげで危うく三途の川を渡るところだったし、怪人を丸呑みにする豚神は名前に新たなトラウマを残していた。
 まったく、ランキング上位にろくな奴は居ないのだ。

「そう思っていた時期が私にもありました」
「あなた、一体何を言っているの?」
 地獄のフブキはそう言ったものの、名前を馬鹿にしたような様子は見受けられない。どうやら本当に疑問に思っただけらしい。危機一髪のところで名前を救い出してくれた彼女は、すっと名前から目を離し、怪人の方へと目を向けた。今はB級二位のマツゲと、三位の山猿が戦っている。
 自分が見られていないことを良いことに、名前はまじまじとフブキを観察した。目鼻立ちが整っており、同じ女である名前でも見惚れてしまうくらいだった。背も高く、スタイルも良い。まさに大人の女性という感じだ。何人もの男性が彼女に首っ丈なのも頷けるというものだ。
 戦慄のタツマキの妹と聞いていたが、全然似てないじゃないか。何より、一般人(つまり、名前のことだが)への対応が違う。物腰が柔らかい。頭ごなしに罵倒したりしない。
「タツマキさんより、かっこいいなあ」
 聞かせるつもりはなかったのだが、どうやら至近距離に立っていた為、フブキにはしっかり聞こえてしまったようだ。その綺麗な眉を、訝しげに顰めている。
「あなた、姉に会ったことがあるの?」
「あー……この間助けてもらいまして」心なしか、声が小さくなった。「お説教されちゃいました」
「タツマキさんより、フブキさんの方がかっこいいです」
 気を悪くするかもしれないと気付いたのは、言葉が口をついて出てからだった。しかし地獄のフブキは別段気に掛けた様子もなく、むしろ嬉しそうに微笑んだだけだった。


 地獄のフブキに対する印象は、良いものばかりだった。B級のトップランカーにも関わらずだ。しかし、どうやらそれも幻想だったらしい。
「あれじゃなかった? フブキってさあ、ヒーロー同士で組作って、下位のランカー潰してるんじゃなかった?」
「そうそう。それで自分は偉そうにしちゃってさ」
「裏で色々やってるらしいよ。自分より上に行きそうなの見つけると、寄って集って潰すんだって」
「お高く留まってるよね」

 友人二人のヒーロー情報網は大概合っている。フブキが新人潰しをしているというのも、恐らく本当なのだろう。クールビューティーフブキという理想像が、がらがらと崩れていく。やっぱりヒーローって碌な奴居ないんだなと、名前はひっそりと幻滅した。

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