「あんたね、馬鹿じゃないの?」
「す、すみません……」
 今現在、幼女に罵倒されている。


 簡単に説明すると、戦慄のタツマキに命を救われた。終わり。
 それならば何故、名前はそのタツマキに罵られているのか。彼女はS級のヒーローであり、名前は一般人だ。ヒーローの仕事は一般人を脅威から救うことであり、名前を助けるのは彼女の義務だ。間違っても、怯える女子高生を言葉の限り罵ることじゃない。
「怪人を見たら逃げなさい」タツマキは、まるで粗大ゴミを見るかのような目で名前を見ている。「それともアンタ、自殺願望者?」
「いえ……」
「それなのに私の前に立つなんて、頭おかしいんじゃないの?」
「仰る通りで……」
 人の居ないところまで連れてこられたおかげで、羞恥プレイではないのが幸いだろうか。名前が気にしているのは、コンクリートと熱いベーゼを交わしている自分の足は大丈夫だろうかという、その一点のみだ。そろそろ本格的に痛くなってきた。

「馬鹿! 阿呆! 頓馬! 間抜け! 不細工! まな板!」
「…………」
 名前が言い返せないことを良い事に、タツマキはぽんぽんと言葉を投げてくる。
 現れた怪人を前にして、タツマキの前に躍り出たのは、別に死にたかったからじゃない。S級ヒーロー戦慄のタツマキは、実年齢はどうだか知らないが、見た目は十歳児程度にしか見えない。つまり、後ろ姿だけでは単なる小学生にしか見えない。
 そりゃ名前だって、その女の子がタツマキだと知っていれば、立ち塞がるような真似はしなかった。確かに人より怪人との遭遇率が高いとは自負しているが、だからといって怖くないわけではないのだ。
 ごく普通の子供だと思ったから、助けなければと思っただけだ。それなのにこの仕打ち。もしかすると、ヒーローの邪魔をしたかったのだと思われたのかもしれない。理不尽だが、いやに威圧感のある彼女を前に、名前は何も言えなかった。というかこの人、いったい幾つなんだろう。


 いい、他の人間なんてほっといて良いから、今度はちゃんと逃げなさい。そう言ってタツマキは去っていった。彼女の冷たい目と来たら、暫く忘れられなさそうだ。嫌な意味で。

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