名前は「ヒーロー」にそれほど良い印象を抱いていない。少なくとも、仲良しの友人二人のように、きゃあきゃあと騒ぎ合うような対象にはできない。それはおそらく、名前が普段からヒーローと接触する機会が多いからなのだろう。名前の中でヒーローとは、自分のランキングばかりを気にして人助けをするか、さもなくば人助けは二の次で、怪獣と戦うことを生き甲斐にしているかのどちらかなのだ。決して良い印象ではない。S級だか何だか知らないが、メタルナイトのミサイルで撃ち落とされた怪人の破片がばらばらと降ってきて脳天に直撃したのは、記憶に新しい。
 助けられてその言い分はないだろうと、普通の人はそう思うかもしれない。実際友達は、名前がヒーローを好ましく思っていないことを疑問視している。

 ところで、世間一般で人気のヒーローは、イケメン仮面アマイマスクだという。友達の中での一番人気も彼だ。ここのところ毎週のように人気ランキングの一位に輝いているアマイマスクは、そのヒーローネームが示す通りの美青年だ。どれが本業なのかいまいち解らないが、俳優や歌手としても人気なのだとか。改めて考えてみれば、テレビで彼の顔を見る機会は多い。CMなどでも引っ張りだこなのだ。
 すらりとした小顔で色白。切れ長の目は大きく、睫毛は長い。鼻は高く、付け加えて顔の造詣がこれでもかと言わんばかりに整っている。人々の考え得るイケメンを人にしたら、アマイマスクになるのかもしれない。彼はそれくらいの美形なのだ。そのイケメン仮面に微笑まれたら、そりゃ、ファンにでもなるのだろう。名前も確かに、これが格好良いというものなのだろうと思っていた。生憎と好みではないのだが、イケメンには違いない。
 それでも名前は、友達と一緒に彼についてはしゃぎ合う気には到底なれなかった。


「本当に、申し訳ありませんでしたああああ!」
 許して下さい許して下さいと、先程から平謝りが続いている。地面に額を擦り付けるようにして土下座をしているのは、ついちょっと前まで人々を恐怖に陥れていた怪人だった。今では名前を含む周囲の一般人は、その恐怖も忘れて怪人の行く末を見守っている。鶏の頭をした怪人は、無惨にも原型を留めないくらいにボコボコにされていた。それをやったのは、イケメン仮面アマイマスク。実に一方的な殴り合いで、カメラでも回っていれば、何かの撮影かと思ったかもしれない。
「いや、も、本当にすみませんでした!」
 鶏男が泣き出した。
「「悪」を行った者を許すほど、僕は甘くないんだ」

 すぱっ、ごろっ、ぶばーっ。
 言葉に表すなら、そんな感じだろうか。ころころと転がるのは、先の怪人の首。頭。ヘッド。今まで名前はやたら不運な目に遭うという体質から、怪人が倒される場面を何度も目撃していた。しかし、流石に首を切り落とされる場面を見たのは初めてだ。あ、怪人と目が合った。トラウマになりそう。
 名前が一人吐き気を催している中、周りの人達はイケメン仮面に向けて歓声を送っていた。どうやらA級一位を前に、抒情酌量の余地もない正義執行は、彼を称賛する理由にしかならないらしい。

 そりゃ、あの怪人は人に迷惑を掛けたが、命乞いしてたじゃないか。

 ランクにばかり気を取られているヒーローもあまり好きじゃないが、ああいう「心底悪を憎んでいて、まったくの容赦のない」ヒーローの存在も、名前が心の底からヒーローを好きになれない理由の一つだった。

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