自分の体質にほとほと嫌気がさしている。毎日のように怪我を負っていれば、どうにかして治せないものだろうかと思うのも当然だろう。
 名前は不幸体質を治す為の苦労を惜しまなかった。病院へ行ってみたり、そういう特殊体質に詳しい者に話を聞きに行ったり、祈祷を受けてみたり。カルト染みた組織のお世話になったりもした(君の体質を人類の進化に生かさないかと誘われたので、丁重にお断りした)。しかし、いずれも功を奏していない。
 今日も、超常現象に詳しいらしいと評判の相談所に足を向けていた。もちろん結果は散々だ。名前のような体質の前例はなく、それゆえに治し方も不明だということだった。助手の人にまで「そういう星の下に生まれたんじゃないですか」と言われてしまった。

 そして帰り道、またもや怪人に遭遇した。昨日も見たばかりである。
 もっとも、遠くからだった。特撮映画に出てきそうな怪獣が、高層ビルを破壊していた。災害レベルは虎……いや、鬼だろうか。動きは鈍いが、やたらとデカい。もうもうと砂埃を立て、コンクリートの塊が崩れていった。その一瞬後に、轟音が鼓膜を揺らす。
 珍しいな、と名前は歩きながら考えていた。
 何が珍しいかというと、名前が当事者でないことだ。確かに怪人との遭遇には違いない。だが、だいぶ距離があるのだ。名前の周りに居る人々も顔に恐怖を張り付けてはいるが、全速力で逃げ出そうという様子は見られない。怪人が此方側に背を向けていることも要因の一つだろう。

 もちろん、油断は禁物だ。怪人には人間の常識は通じないのだから。何が起こるのか、希望的観測は命取りになる。しかし名前は、そのことをすっかり忘れていた。


 怪人の背中には、巨大な筍のような棘がびっしりと生えていた。ヒーローの攻撃でも受けたのだろうか、怪人は怒り狂ったように見えた。それから巨大な遠吠え。そしてその咆哮と共に、怪人の背中が膨れ上がり、その背に生える無数の棘が勢いよく発射された。
 辺りは一瞬にして、阿鼻叫喚となる。
 怪人の飛ばした棘が、名前達の居る付近にまで飛んできていた。何人かが負傷しており、またも名前は、自分が怪我を負わなかった奇跡に驚愕した。こういうの、直撃するのが私の役目なんじゃないのか。しかし――。

 ちりっ、と、小さな音がした。米神の辺りから血を垂らしながら、名前の心臓はこれ以上ないくらい脈打っていた。もう十センチ、右に立っていたらどうなっていたことか。
「危ねぇだろうが! 喧嘩売ってんのかオラァ!」
 後ろから鋭利な物が飛んできたのだ。二撃目はなんとか避けた。見間違いでなければ、先程怪人から飛ばされてきた棘のようだった。それが元の持ち主に向かって矢のように飛んでいく。名前の右側の髪の毛を切り落としていったのはそれだ。はらはらと、切り落とされた髪の毛が舞っていた。
 強制的にイメチェンをさせてくれた男、S級ヒーロー金属バットは、振り抜いたバットを降ろした。視線の先の怪人は、既に息絶えているようだった。

 周りに居た市民がきゃあきゃあと黄色い声を上げる中、金属バットは顔を青くさせて立っている名前に声を掛けた。「オイ、大丈夫かよ。怪我してるじゃねぇか」
「互いに災難だったな」
「や……この怪我はあなたが飛ばした棘でできたものであって」
「コッチは妹の迎えに行かなきゃならねぇってのによ。おかげで遅刻だぜ」
「聞けよ人の話を」
 思わず漏れてしまった呟きも、この血の気の多そうなヒーローには届かなかったらしい。帰路に付きながら、もう絶対に怪人にあってから油断はしないと、名前は心に決めた。

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