「あれ、名前ちゃん何でジャージなの?」
 この問いに、今日は何度答えただろうか。そして、「ああー……」と納得と同情の目で見られるのも何度あっただろうか。

 この日一日、名前は学校指定のジャージで過ごしていた。ダサいと評判のそれは小豆色をしていて、まさに芋ジャージ。女子の間ではすこぶる評判が悪かった。衣服にそれほど頓着が無い名前でさえ、このジャージを着るのは嫌だった。しかし、今日ばかりはそうもいかない。
 ダサいだけのジャージと、血に染まった制服とでは、もちろんジャージの方がマシだ。
 仲良しの友達は、名前の不幸を聞くと、やはり納得したように頷き、やはりそれから同情の目を向けた。

 名前は不幸体質だった。
 いや、「不幸体質」などというものが無いことは解っている。しかし、そうとしか形容ができないのだ。名前は何をしても運が悪かった。よほど神様に嫌われているのか。物を失くすなど序の口で、階段の一番上から転げ落ちたり、鳥に糞をかけられたり、電車が遅延したり。十八年生きてきた中で、何度骨折しただろうか。下手したら年に一度は骨を折っている。生まれてから一度も骨折したことがない人の方が多いはずなのに。
 名前の「不幸」は、小さなことから大きなことまで様々だ。実のところ、怪人に襲われたのも昨日が初めてではない。

「あれよね、名前は出歩かない方が良いんじゃない」
「ちょっと出掛けるだけで、毎回怪人に会ってるでしょ」
 仲良しの二人は、呆れたようにそう言った。その目には労わるような色があったが、その内に消え失せる。
「でも良いよね、私もS級ヒーロー生で見たいわ」
「ほんと、一度でいいから見てみたい。名前、昨日助けてくれたのもS級だったんでしょ? 誰だって?」
「番犬マン」
 ふてくされた名前の声に気付かず、二人はきゃあきゃあと盛り上がった。彼女達はミーハーなのだ。四六時中、かっこいいヒーローについて話している。
「いいなあ……番犬マンってクールでかっこいいよね」
「そうそう。しかも結構イケメンだし」
「ほんと、名前が羨ましいー」
「二人とも、他人事だと思って!」
 友人達はけらけらと笑いながら、今度イケメンヒーローに助けられたらサイン貰ってきてねと言ったのだった。誰が貰ってきてやるものか。


 その日の帰り道も怪人に遭遇した名前は、ちょうど通り掛かったらしきブルーファイアに助けられた。友人達の言うイケメンヒーローに入るんじゃなかったかと思ったが、顔からずっこけ鼻血を噴出していた為に、そこまで気が回らなかった。ブルーファイアが心配そうに自分を見ていたことだけは覚えている。

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