ムラッと、した。
 気付けば私の両腕は血みどろ。辺りは悲鳴と肉塊、そして夥しい量の血で埋め尽くされていた。別に、我を失くしていたわけではない、筈なのだが、どうにも記憶が曖昧だ。普段アジトでぐだぐだしている私と、こうして時々地上に現れて虐殺を繰り返す私は、本当に私なのだろうか。
 S級のヒーローが現れない内に、名前はその場から退散した。連中は規格外だ。別に倒せないことはないが、手こずるのは必至。血まみれで帰って来た名前を見て、キリサキングがひゅーっと口笛を鳴らした。どうやら口はあるようだ。
「相変わらず凄いね、名前ちゃん」
「ちょっとムラッときたんです」
「妙な言い回しはやめようね。私、そういう趣味ないから」
 告白してもいないのに振られた。

 殺戮衝動は三大欲求に等しく生理的に起こるものではないかと名前が問えば、キリサキングは半分ほど肯定した。彼が人間だったことがあるのかは知らないが、どうやら名前らの言う食欲や睡眠欲、性欲が理解できないらしかった。怪人は、殺したい時に殺すだけなのだ。まあ彼だけでなく、此処に居る大体の奴がそうなのだが。ハグキなんて、何かを食べている場面しか……あれは食欲か?
「あなたの言ってることも一理あると思うよ、私は」キリサキングが言った。「それが怪人ってものでしょ。違う?」
「で、何でそんなこと考え始めたの。良心でも痛んじゃった?」
「すげえやキングさん……良心なんて言葉知ってたんだ……」
「刻み殺すよ」
「ご勘弁ー」
 切り刻まれた。まったく理不尽である。

 うごうごと肉塊のまま這っていると、どうやらキリサキングがまだ付いてきていることが解った。何だ? まだ殺したりないのか? こっちは三回くらい死んだぞ。そして超痛い。
 途中で育ち過ぎたポチと遭遇した。どうやら名前を餌だと思ったようだが、殺気を飛ばせば尻尾を巻いて逃げていった。喧嘩を売る相手を間違えるんじゃないよ。
「名前ちゃんはさ、そんなに強いのに、どうして馬鹿なこと考えたの?」
「馬鹿なこと?」
 会話に不便だったので、名前は超速再生することにした。細切れのまま動いているのは、なかなかに楽しかったのだが。一瞬にしてR18な肉塊から、元通りの姿に戻る。名前の唯一の取り柄であり、怪人たる所以でもあるそれを、キリサキングは横目で見ていた。「色々見えてるよ」と言って纏っていた黒服を渡してくれた彼は、存外優しい。かもしれない。
「どうして殺したくなるのかとかさあ、どうだって良いじゃない。殺すの楽しいでしょ」
「うん」名前は即答した。
「だったら良いじゃない。名前ちゃんがそうやって何かを考えてると、正直不気味だよ」
「どういう意味ですかー、それ」
「そのまんまの意味」
 キリサキングが笑ったようだったので、名前も破顔した。

「キングさんも割とノリで生きてますよね」と言うと、キリサキングは「名前ちゃん、もう一回死んじゃう?」と笑った。名前は再び「ご勘弁ー」と言ったのに、彼は情け容赦なく名前の身を切り裂いた。鬼畜にもほどがある。

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